研究課題/領域番号 |
23790930
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
坂入 徹 群馬大学, 医学部, 助教 (20455976)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Wilms tumor 1 / TGF-beta 1 / podocyte |
研究概要 |
我々は、TGF-beta1がWT1の低下させることにより糸球体上皮細胞障害を惹起しているのではとの仮説を立て、研究を行ってきた。まず、ヒト培養糸球体上皮細胞に TGF-beta1を作用させることにより、WT1 mRNAおよびWT1蛋白の発現が減少することを定量的PCR、ウエスタンブロットおよび免疫染色にて確認した。次に、そのメカニズムを調べるために、レンチウイルスベクターを用いてShRNA導入することにより培養細胞中のSmad4をノックダウンした後、TGF-beta1を作用させ、WT1の発現を調べた。Smad4をノックダウンした培養細胞では、TGF-beta1によるWT1 mRNAおよび蛋白の減少が部分的に解除されたことから、TGF-beta1が、Smadシグナルを介してWT1発現を低下させることを明らかにした。次に、TGF-beta1による上皮間葉転換に関与することが知られているSNAILの役割について調べるために、レトロウイルスベクターを使ってSNAILを培養細胞に強発現させ、WT1の発現を調べたが、WT1の発現は低下せず、SNAILの関与は否定された。次に、レポーターアッセイを行い、TGF-beta1が、WTプロモーターではなく、5’エンハンサー活性を抑制することを確認した。更に、培養細胞で得られた結果を生体でも確認するために、TGF-beta1トランスジェニックマウスの腎組織を解析した。野生株に比べ、トランジェニックマウスの糸球体上皮細胞でWT1蛋白の発現が低下することを明らかにした。以上の成果をNephrology Dialysis Transplantation誌に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究の第一の目標である、TGF-beta1によるWT1発現低下の機序を解析することについては十分な成果を得ることが出来たと考える。TGF-beta1によるWT1発現低下が、Smad4のノックダウンによってレスキューされたことで、TGF-beta1のTGF-beta受容体への結合、Smad2/3のリン酸化およびSmad4との複合体形成、Smad複合体の核内への移行、といったTGF-betaの主要なシグナル経路であるSmadシグナルが、WT1の発現低下を仲介することが明らかとなった。Smadと同様、TGF-beta1の下流で重要な役割を果たすと考えられている転写因子のSNAILについては、強発現の実験でWT1発現に変化を認めなかったことから、その調節には関与していないと考えられた。これは、期待していた結果とは違っていたものの、重要な知見と考えられた。その他、WT1のレポーターアッセイでは、TGF-beta1によるプロモーター活性の低下が認められず、5’エンハンサー活性の低下が認められた。5’エンハンサーについては、Smad4との特異的な結合をChipアッセイで証明出来ておらず、課題が残った。その他、アルブミンプロモーター依存性にTGF-beta1を恒常的に発現し、びまん性糸球体硬化症を呈することが知られている、TGF-beta1トランスジェニックマウスの糸球体上皮細胞においてもWT1蛋白の発現が低下することが証明出来た。培養系のみでなく生体でもTGF-beta1のWT1調節作用を証明できたことは大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進策としては、TGF-beta1によるWT1発現調節の機序を更に深く解明することを考えている。まず、microRNAがその作用を仲介している可能性を考え、研究を進めていく。我々のこれまでの研究で、TGF-beta1がmicroRNAの一つであるhas-miR-143の発現を上昇させ、またhas-miR-143の強発現によってWT1の発現が減少することから、miR-143がTGF-beta1によるWT1発現低下を仲介していることを明らかとなり、このことを2011年のアメリカ腎臓学会で報告した。今後は、miR-143のターゲットを同定する必要がある。また、WT1のエピジェネティックな発現調節にも注目し、研究を進めていく。我々のこれまでの研究で、TGF-beta1が、WT1プロモーターのメチル化を起こし、また、メチルトランスフェラーゼ阻害薬により、TGF-beta1によるWT1低下作用が相殺されたことから、WT1プロモーターのメチル化がTGF-beta1の作用を仲介していることが分かり、このことについて2011年のアメリカ腎臓学会で報告した。成果報告で記載したように、プロモーターアッセイではTGF-beta1はWT1のプロモーター活性を低下させず、この結果とは一致しないが、メチル化はTGF-beta1による刺激開始後10日目に確認されており、より後期の反応に関与していると考えられ、プロモーター活性についても再検を検討中である。
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次年度の研究費の使用計画 |
TGF-beta1によるWT1発現におけるhas-miR-143の役割を調べるために、has-mir-143のアンチセンス(レンチウイルスベクター)を購入し、培養細胞に導入し、TGF-beta1によるWT1の発現低下がレスキューされるかを調べる。TGF-betaの下流において、miR-143のターゲットとなる分子を同定するために、3’UTRの配列からターゲットとなることが予測される分子を複数ピックアップし、抗体を購入し、miR-143を強発現した細胞とコントロールでウエスタンブロットにて蛋白発現を比較することにより、スクリーニングする。可能性が高い分子の3'UTRレポーターベクターを購入しレポーターアッセイで確認する。また、マウス腎における、miR-143の発現と、TGF-beta1トランスジェニックマウスでの発現の上昇を確認するために、miR-143に対するプローブを購入しin-situ hybridizationを行う。
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