研究概要 |
本研究はヒト近位尿細管に特異的なアンジオテンシンII(AngII)の作用機序の詳細を解明するために立案された。 AngIIはラット・ウサギ・マウスの近位尿細管(PT)輸送に対し二相性作用(低濃度で刺激,高濃度で抑制)を示すが,ヒトにおいてはPT輸送を濃度依存的かつ一相性に亢進させる。このヒトPT特有のAngII作用機序を明らかにするため,腎癌摘出術から得られた正常ヒト腎皮質,野生型及びcGMP依存性キナーゼcGKII欠損マウス腎にて,単離潅流PTのNBCe1活性測定,Western blotによるキナーゼアッセイを行った。MEK及びcGKII経路の活性化は腎皮質でのERK及びGSK3βリン酸化により評価した。 ヒトでは10-6M AngIIのNBCe1亢進(+103%)はNOS阻害剤(L-NAME)、可溶性グアニリルシクラーゼ(sGC)阻害剤(ODQ)により完全に阻害され、NOドナー(SNP)および8Br-cGMPはNBCe1活性を亢進させた。これらの刺激作用はcGKIIではなくERK経路に依存していた。野生型マウスでは10-6M AngIIの抑制(-30%)はL-NAME, ODQにより刺激に転じ、SNPおよび8Br-cGMPはNBCe1活性を抑制した。 cGKII欠損マウスでは全濃度の AngIIは刺激作用(+30%)を有し、SNP, 8Br-cGMPはNBCe1活性に影響しなかったため,マウスでは高濃度AngIIの抑制作用はNO/sGC/cGMP/cGKII経路に依存することが示された。ヒトではNO/sGC/cGMPからcGKIIを介さずMEK/ERKを活性化する特異的経路が存在するためAng IIが一相性刺激作用を持つと考えられた。 ヒトではAngIIによる血圧調節がより重要であること,PT輸送に対するNOの刺激作用をターゲットにした高血圧治療の可能性も示唆された。
|