研究課題/領域番号 |
23790933
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
アブデルガワッド サマー 新潟大学, 医歯(薬)学総合研究科, 研究員 (50529469)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 膜性腎症 / 腎生検FFPE試料 / Laser microdissection / LC-MS/MS |
研究概要 |
質量分析計による解析を目的として、フォルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織標本からLaser microdissection(LMD)で切出した切片からのタンパク質抽出法について検討した.既報の方法(SDSによる可溶化とLiquid Tissue (Expression Pathology, Rockville, MD, USA))による可溶化に加えて、我々が開発を進めている,切出した組織切片を直接トリプシン消化する方法(On site direct dissection, OSDD)について検討した.最も一般的な方法と考えられるSDSによる可溶化については,温度,pH,他の界面活性剤との組み合わせについて検討した結果,4% SDS,0.5 % beta-D-octylglycoside, 50 mM Tris-HCl, pH 8.0による加熱条件下の可溶化が,Liquid Tissueを用いた場合と同様なタンパク質抽出効率を示した.さらに,タンパク質消化を,Lys-Cに続いてtrypsinによる2段階消化がペプチド回収率を改善することを見出した.現在,このSDSによる方法とLiquid Tissueによる方法で調製したペプチド試料を用いて,高分解能HPLCと、高感度、高精度、高分解能、高速スキャンが可能な質量分析計により解析を行ない,同定されたタンパク質の質的,量的相違について検討している.さらにOSDD法によって調製した試料についても同様な比較を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に信楽園病院(新潟市)とMansura腎臓研究所(Mansura,エジプト)から膜性腎症のフォルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腎生検試料(30例)を入手している.昨年度は,腎癌により腎摘除術を受けた患者の組織学的に正常な腎臓皮質から作成したFFPE試料の切片を用いて,Laser microdissection (LMD) により切り出した糸球体からのタンパク質抽出とトリプシン消化法の基礎的検討を行った.既存の方法(SDSによる可溶化とLiquid Tissue (Expression Pathology, Rockville, MD, USA))に加えて,独自に開発した,切り出した切片を直接トリプシン消化する方法(On site direct digestion, OSDD)について検討した結果,それぞれの方法の至適化に成功し,ほぼ同様な抽出効率,ペプチド回収率が得られることがわかった.現在,これらの方法で得られた試料の質量分析解析を行っており,それぞれの特徴,補完性,網羅性などについて検討している.
|
今後の研究の推進方策 |
現在入手している30例の膜性腎症患者(MN)から得た腎生検試料のFFPE標本について,Laser microdissectionで切り出した糸球体を対象として,高分解能LCと高精度,高分解能.高感度,高速質量分析計を用いて網羅的解析を行う.一方,現在までに蓄積している正常腎糸球体のFFPE標本についてもまったく同様な解析を行う.これらの解析から得られたデータセットを用いて,我々が以前開発した「All-and-None」法により,MNで発現が上昇あるいは下降しているタンパク質を探索する.さらに,確認のために,これらのタンパク質の中から疾患に関連が深いと考えられるタンパク質をバイオインフォマティクスツールを用いて絞込み,免疫化学的な方法により検証する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
現在の質量分析計技術の技術的改良は著しいものがある.特に,高分解能のUltra performance liquid chromatographyと高分解能,高精度,高感度,高速な質量分析計を組み合わせた解析系は優れた解析能力を示すことが多くの例で示されている.現在我々はこれらの最新鋭の分析機器を使用できる環境にあり,これらの機器を用いて,膜性腎症(MN)のフォルマリン固定パラフィン抱埋腎生検試料からLaser microdissectionで作成した糸球体試料の解析を行う予定である.方法は発現量が変化しているタンパク質の検出に優れた,我々が開発した方法である「All-and-None」法を用いる.この方法の原理は,MNにのみ発現しているタンパク質,あるいは正常コントロールのみに発現しているタンパク質を見出すことにある.これらの発現量が変化しているタンパク質を見出した場合には,免疫化学的な方法によりさらに多くの試料について検証を行う予定である.さらに,バイオインフォマティクスツールによるpathway解析を中心に,膜性腎症の病因の解析,また治療ターゲット標的分子の探索まで行うことを予定している.
|