研究課題
我々は、多発性嚢胞腎(ADPKD)の原因遺伝子のひとつであるPKD2遺伝子の変異(697fsX)を有する一家系を見出した。この変異によりpolycystin-2(TRPP2)はC 末端を欠損し、局在が小胞体膜上(ER)から細胞膜上(PM)へ変化することで、TRPC3 およびTRPC7 と相互作用し新たなチャネル活性を獲得することを報告した。本研究では、この局在異常型TRPP2のモデルマウスを樹立することにより、① 他のTRP チャネルとの相互作用の観点から嚢胞形成の発症機序を解明すること、② TRPC3 阻害薬であるピラゾール化合物の嚢胞形成抑制作用について確認し新規治療薬のターゲットとなり得るかを検討することを本研究の目的とした。本年度は、昨年度に引き続き、TRPP2 697fsXまたは野生型のTRPP2を有するトランスジェニックマウスの作製を行った。昨年度末の時点で、TRPP2野生型およびTRPP2 697fsX(変異型)トランスジェニックマウスのファウンダーマウスが得られたが、本年度はこれらのマウスより、実験に使用するF1マウスを作成した。組織学的検討を行ったところ、TRPP2 697fsXにおいては、尿細管拡張、血管拡張などの所見が得られた。また、免疫組織学的検討を行い、発現の確認を行った。本年度の研究成果により、新規多発性嚢胞腎モデルマウスとしての基礎が完成した。今後は、免疫学的、電気生理学的手法を用い、嚢胞形成の発症機序について詳細に検討していく。
3: やや遅れている
本年度は、TRPP2野生型および変異型トランスジェニックマウスの完成および組織学的検討を行った。トランスジェニックマウスの作成が当初の予定より遅れたたが、マウスの完成により今後の実験計画がスムーズに遂行できると考えられ、大きな遅れとは考えていないため、達成度をやや遅れているとした。
今年度は、まず表現形および病理学的検討を詳細に行う。作製したトランスジェニックマウスの腎臓を胎生期を含め、4週齢ごとに評価し、どの週齢より嚢胞腎形成が起こるかを評価する。さらに他の臓器の病変も評価する。また、TRPP2 697fsX の発現の確認をRT-PCR 法、ウエスタンブロット法、免役染色法を用いて確認する。平行して腎機能、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)系の評価を行う。具体的には、血尿、蛋白尿、血清クレアチニン、血清レニン活性、血清アルドステロン濃度など腎機能を1 ヶ月ごとに評価する。次に、嚢疱形成におけるTRPC3/TRPP2 697fsX ヘテロ重合体の関与についての検討を行う。まず、RT-PCR 法、ウエスタンブロット法を用いて、腎尿細管上皮および腎外の各臓器における、TRPP2 697fsX の発現を確認する。さらに、免疫染色法を用いてTRPP2 697fsX がTRPC3 と細胞膜上の同一の部位に存在するかを確認する。上記が確認された上で、TRPC3/TRPP2 697fsX ヘテロ重合体の有無について、電気生理学的手法およびfura-2 を用いた細胞内カルシウム測定の手法を用いて評価する。これらの実験は、京都大学大学院工学研究科の森泰生教授と共同研究で行う。さらに、選択的TRPC3チャネル阻害剤であるピラゾール阻害剤を投与し、腎嚢胞の抑制作用があるかどうかを確認する。
実験用のマウスは常時50-70匹飼育しており、その維持費用として250千円を計上した。また、組織染色用抗体および試薬として100千円、血清及び尿検査用試薬として100千円を計上した。得られた結果の学会発表のために、国内100千円を計上し、また論文作成に関しては、英文検閲として50千円、別刷り代として100千円を計上した。なお、平成24年度に6240円の未使用額が生じた。効率的な執行により端数が生じ未使用額が発生したと考えられた。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
Am J Case Rep
巻: 14 ページ: 20-25
10.12659/AJCR.883751
Mod Rheumatol
巻: Epub 2012 Nov 1 ページ: 印刷中
巻: 22(6) ページ: 859-570