研究課題/領域番号 |
23790938
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荒岡 利和 京都大学, iPS細胞研究所, 研究員 (40437661)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 血管炎症候群 / 顕微鏡的多発血管炎 / 血管内皮細胞 / iPS細胞 |
研究概要 |
血管炎症候群の病因の一つとして近年血管側の素因も疑われている。本研究では、顕微鏡的多発血管炎(MPA)の患者から得た疾患iPS細胞から分化誘導した血管内皮細胞を用いて、血管側から血管炎の発症や進展のメカニズムを解明することを目的としている。平成23年度において、MPA患者3名からiPS細胞を樹立した。そのうち患者1名から樹立したiPS細胞は、樹立のため導入した遺伝子がサイレンシングされ、未分化状態が維持でき、三胚葉系への分化能があること、さらに核型異常がないことを確認し、さらには血管内皮細胞に分化誘導可能であることも確認した。次に、このMPA患者1名と健常日本人1名から樹立したiPS細胞から分化誘導した血管内皮細胞をTNF-alphaによって刺激したところ、両者ともICMA-1、TNF-alpha、IL-6、IL-8の発現が増加することが分かった。さらに、マイクロアレイによる血管内皮細胞の発現遺伝子の差異について解析したところ、健常人に比べて2倍以上発現が増加する遺伝子が約480個、2倍以上発現が低下する遺伝子が約1,600個候補に挙がり、新規病態形成関与因子の同定に一歩近づいた。次に、MPAは好中球と血管内皮細胞の相互作用によって病態を形成する可能性が考えられているため、患者iPS細胞由来血管内皮細胞と患者iPS細胞由来好中球の共培養によるMPA試験管内疾患モデルの構築を開始した。まず、健常日本人から採取した好中球と健常日本人iPS細胞由来血管内皮細胞を共培養し、遺伝子の発現変化を確認する実験系を確立した。次に、好中球への分化誘導法(Niwa, A. et al., 2011)の再現性を健常日本人iPS細胞において確認ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度中に施行予定であったiPS細胞の樹立・品質の確認のうち、MPA患者由来iPS細胞の品質の確認が2名で遅れているものの、MPA患者1名、健常日本人3名から樹立したiPS細胞の品質確認は施行できた。またそれらのiPS細胞を使うことによって、平成24年度に施行予定だった健常日本人および患者iPS細胞由来血管内皮細胞における遺伝的な差異を、マイクロアレイを使って確認できた。さらに、ANCA関連血管炎発症の重要な外来因子の一つとして考えられるTNF-alphaによる刺激実験を行い、健常日本人および患者iPS細胞由来血管内皮細胞が共に免疫反応を示すことも見出した。また、好中球と血管内皮細胞の反応性を検証するための試験管内疾患モデルの構築のために、既報の分化誘導法を用いてiPS細胞から好中球を分化誘導することにも成功した。したがって、平成24年度施行予定の実験の一部を前倒しで施行することができた点において、順調に実験がすすんでいると自己評価した。また、平成23年度に施行予定の分化誘導した血管内皮細胞の成熟化については、iPS細胞の樹立までに時間がかかるため、それまでの間に成熟化方法を見いだす予定であったが、予定よりも早くMPA患者及び健常日本人からiPS細胞の樹立を行うことができたため、成熟化方法の検討は順調には進んでいない。しかし、上述した通り健常日本人とMPA患者iPS細胞由来血管内皮細胞間に遺伝的差異を認めており、まずは、この差異を十分評価・解析することにより、試験管内疾患モデルの作製と新規病態形成関与因子の同定を試みる。また、同時に分化誘導した血管内皮細胞の成熟化方法の検討を行い、病態をより模倣する試験管内疾患モデルの作製と新規病態形成関与因子の同定を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、まだ品質評価の完了していないMPA患者2名から樹立したiPS細胞において、樹立のため導入した遺伝子(山中4因子)のサイレンシングの程度、未分化状態マーカー遺伝子の発現、三胚葉系への多分化能、さらに、核型異常の有無を評価する。確認後、他のiPS細胞株と同様に血管内皮細胞への分化誘導を行い、マイクロアレイによる遺伝的な差異、TNF-alphaに対する反応性の違いなどを検証する。さらに外来因子として、シリカやアスベストなどと共に、抗MPO抗体や、抗Lamp-2抗体などの自己抗体、さらにはIL-8による刺激も行い、新規病態形成関与因子の同定を進める。また、MPA患者iPS細胞から分化誘導した好中球と血管内皮細胞の共培養系を上記で同定する外来因子で刺激することによって、病態をより模倣する試験管内疾患モデルの構築を行う。上記の実験をすすめるとともに、分化誘導した血管内皮細胞の成熟化方法の検討も並行して行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
MPA患者由来iPS細胞の品質確認のために、導入した遺伝子のサイレンシングの程度を定量的PCRで評価し、未分化状態の確認と三胚葉系への分化能の確認のために各種未分化状態マーカー抗体を使った免疫染色を行い、さらに、核型異常の有無の確認のための費用が必要である。また、iPS細胞を維持するための培地も高価(500 mlで20,000円程度)であることと、試験管内疾患モデルの作製と新規病態形成関与因子の同定のために、TNF-alphaをはじめとするサイトカインや、iPS細胞を血管内皮細胞や好中球に分化培養するために必要な各種の成長因子、さらには、遺伝的な差異、反応性の違いを確認するためにマイクロアレイを行うための試薬の購入が必要であるため、多くの研究費を必要とする。
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