申請者は糖尿病マウス糸球体を用いた独自のスクリーニング法で着目したTLR4とその内因性リガンドMRP8が、糖尿病マウスへの高脂肪食負荷により糸球体で発現が増強していたため、脂質による糖尿病性腎症悪化に果たすMRP8/TLR4の役割を検討した。その結果、TLR4の欠損により脂質による糖尿病性腎症の悪化が有意に抑制されると同時に糸球体MRP8陽性浸潤細胞が著明に抑制されることが明らかとなった。またマウス糸球体で出現するMRP8陽性細胞はマクロファージ(Mf)であり、in vitroの検討の結果、糖と脂質はMf上に発現するTLR4依存的にMRP8発現を相乗的に誘導することで糸球体病変を進展させると考えられた。 ヒト糖尿病性腎症において腎組織MPR8/TLR4 mRNAが増加していることを昨年確認した。さらに当科において腎生検を施行した肥満あるいは2型糖尿病を有し、タンパク尿を呈する患者を含む計65症例でMRP8の免疫染色による評価を行った。糖尿病性腎症群は肥満関連腎症、非肥満・非糖尿病コントロール群と比較して有意に腎組織MRP8発現が高値であった。さらに1)年間血清クレアチニン50%以上の増加あるいは透析導入で定義した腎イベント、2)腎生検1年後の尿蛋白を腎予後指標として予後予測に関する検討を行った。単変量解析では従来の危険因子(血圧、腎機能、尿蛋白、脂質)と腎組織MRP8発現が腎予後指標と関連していた。ロジスティック回帰分析あるいは重回帰分析による多変量解析により、従来の危険因子で補正後もなお、腎組織MRP8発現は独立して腎予後を予測する因子であることが明らかとなった。以上より、MRP8/TLR4シグナルは糖尿病性腎症の進展に重要であり、新規治療標的になりうることが期待される。
|