研究課題/領域番号 |
23790946
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
島村 芳子 高知大学, 医学部附属病院, 医員 (20554679)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 再生医学 / オートファジー / サーチュイン / 急性腎障害 / 腎不全 |
研究概要 |
近年の日本において末期腎不全により透析療法に至っている患者数は29万人を越え、患者のQOLの改善や医療経済上の問題から腎不全への抜本的対策が急務である。各種腎障害時にはオートファジーの低下による異常蛋白の蓄積と細胞障害が病態に関与している可能性があり、また虚血などによる急性腎不全では、細胞が栄養飢餓状態となることで急速に誘導されるオートファジーの関与が考えられている。しかしながら、腎臓病の病態におけるオートファジーの役割については急性腎障害でオートファジーが観察されるという申請者らを含めた報告をのぞいては不明である。そこで我々はオートファジーと栄養低下時に誘導されるSirt1(サーチュイン)の腎障害での役割について、遺伝子改変マウスを使用し解析し、新規診断・治療法の開発を目指している。オートファジーとアポトーシスが急性腎障害で観察される事を既に報告しているが、その情報伝達系と病態での役割は不明な点が多い。そこでまずミトコンドリアの機能に関わる遺伝子であるBNIP3の急性腎障害での働きを検討したところ、BNIP3が酸化ストレスにより尿細管細胞で誘導されることでオートファジーとアポトーシスの両者を調節していることが判明、急性腎障害の病態における重要な働きをしている可能性が示唆された。また、p53の標的蛋白であるSestrin2が骨肉腫細胞をオートファジーに導くことが報告されており、そのことからSestrin2が急性腎障害時にオートファジーを誘導し腎保護的に働くことが推察され、その検証を行ったところ、Sestrin2は傷害された尿細管細胞をオートファジーに誘導することから急性腎障害での重要な働きが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はオートファジーと栄養低下時に誘導されるSirt1の腎障害での役割について検討している。オートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態での役割は不明な点が多く、まずその解明のためミトコンドリアの機能に関わる遺伝子であるBNIP3の急性腎障害での働きをラットの虚血再灌流モデルおよび培養尿細管細胞を用いて検討した。ラットの急性腎障害モデルではBNIP3は近位尿細管細胞で発現が増加し、酸化ストレス下の培養尿細管細胞ではBNIP3はRNA・蛋白レベルで誘導され細胞内局在も変化した。BNIP3の遺伝子導入はオートファジーを誘導しアポトーシスを亢進させた。そのことから、BNIP3は酸化ストレスにより尿細管細胞で誘導されオートファジーとアポトーシスの両者を調節し急性腎障害の病態における重要な働きが示唆された。また、p53の標的蛋白であるSestrin2が骨肉腫細胞をオートファジーに導くことが報告されている。そのことからSestrin2が急性腎障害時にオートファジーを誘導し腎保護的に働くことが推察され、虚血再灌流モデルおよび培養尿細管細胞を用いて検討した。虚血再灌流ラットでSestrin2の近位尿細管細胞での発現が増加し、ストレス下の尿細管細胞でSestrin2はRNA/蛋白レベルで誘導された。また、Sesn2の遺伝子導入はオートファジーを誘導した。一方、siRNAによるSestrin2の発現抑制でH2O2によるオートファジーの誘導は減弱した。そのことから、Sestrin2は傷害された尿細管細胞をオートファジーに誘導し急性腎障害での重要な働きが示唆された。 以上のようにオートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態解明のため検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度はオートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態解明のためBNIP3やSestrin2についての検討をおこなったが、平成24年度はその研究をさらに発展させ、まずLC3-GFPトランスジェニックマウスで急性腎障害のモデルとして腎動脈虚血/再灌流モデルは既に作成したが、さらに慢性腎障害のモデルとしてアドリアマイシン誘導ネフローゼモデルおよび、5/6腎摘等の腎疾患モデルを作成する。それらの障害腎を蛍光顕微鏡で観察して、オートファゴゾームの活性化の有無、オートファジーを伴う細胞死の有無、アポトーシスを起こす細胞との違いを調べ、様々な腎疾患におけるオートファジーの役割を推定する。またマクロオートファジーに関連した蛋白質のLC3等の動向をwestern blot等を通じて観察する。現在もGFP結合LC3蛋白を安定導入した尿細管細胞やポドサイト細胞を、低酸素またはH2O2等の酸化ストレスや飢餓状態に置くことで、腎障害時の細胞モデルを作成しているが、障害細胞におけるオートファゴゾームの活性化の有無を今後も継続して検討する。また、in vitroでもマクロオートファジーに関連したLC3蛋白等の動向をWestern blot等を通じて観察する。さらに、マウスや培養細胞におけるマクロオートファジーをインスリンやラパマイシン等を用いてTOR(target of rapamycin)を通じてコントロールすることと、PI3Kgamma KO マウスとLC3-GFP TG マウスの交配の系及びAktのアデノウイルスを用いた遺伝子導入の系で、各種腎疾患時のオートファジーの病態における意義・メカニズムを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の計画に基づく経費執行について、4月に支払いすべき経費が残っているため、次年度使用額が存在するように見えるが、実際には、全額を執行予定である。そのため、次年度の研究は、当初の計画通り進める予定である。
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