研究課題/領域番号 |
23790946
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
島村 芳子 高知大学, 教育研究部医療学系, 助教 (20554679)
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キーワード | 再生医学 / オートファジー / サーチュイン / 急性腎障害 / 腎不全 |
研究概要 |
近年の日本において末期腎不全により透析療法に至っている患者数は30万人を越え、患者のQOLの改善や医療経済上の問題から腎不全への抜本的対策が急務である。各種腎障害時にはオートファジーの低下による異常蛋白の蓄積と細胞障害が病態に関与している可能性があり、また虚血などによる急性腎不全では、細胞が栄養飢餓状態となることで急速に誘導されるオートファジーの関与が考えられている。我々は、LC3(Light chain 3-II)-GFPトランスジェニックマウスを用いて急性腎障害時に起こるアポトーシスにオートファジーが先行することを報告しているが、他にも虚血再潅流や薬物、酸化ストレスの負荷などによる腎障害モデルにおいてオートファジーが尿細管を保護的に作用することが報告されるようになってきた。我々はオートファジーとアポトーシスが急性腎障害で観察される事を既に報告しているが、その情報伝達系と病態での役割は不明な点が多い。 そこでまずミトコンドリアの機能に関わる遺伝子であるBNIP3の急性腎障害での働きを検討したところ、BNIP3が酸化ストレスにより尿細管細胞で誘導されることでオートファジーとアポトーシスの両者を調節していることが判明、急性腎障害の病態における重要な働きをしている可能性が示唆された。 そこで我々はオートファジーと栄養低下時に誘導されるSirt1(サーチュイン)の腎障害での役割について、遺伝子改変マウスを使用し解析し、新規診断・治療法の開発を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はオートファジーとSirt1の腎障害での役割について検討している。オートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態での役割は不明な点が多く、まずその解明を行っている。ミトコンドリアの機能に関わる遺伝子であるBINIP3の急性腎障害での働きは不明であったことから尿細管においてオートファジーとマイトファジーの調整に関与するかをラットAKIモデルおよび培養尿細管細胞を用い検討した。結果、ラットAKIモデルでBNIP3は近位尿細管細胞で発現が増加し、酸化ストレス下の培養尿細管細胞でRNA・蛋白レベルで誘導された。またBNIP3の遺伝子導入はオートファジーとマイトファジーを誘導し、アポトーシスも亢進させた。さらにHSPB1(Heat shock protein beta-1, HSP27)はHSPファミリーの一つであるが、AKIでの働きは不明であり、ラット虚血再潅流AKIモデルおよび培養尿細管細胞を用いHSPB1の発現調節と機能を検討した。結果、HSPB1は酸化ストレスにより尿細管細胞で誘導されオートファジーを亢進していることが判明し、AKIの病態における重要な働きが示唆された。また腎胎生期に発現し尿細管形成に重要な意義を果たしているSix2-GDNF(glial cell-derived neurotrophic growth factor)系のAKIにおける発現と働きを検討した。虚血再灌流後の腎において、Six2とGDNFの発現は亢進し、組織学的にも近位尿細管で発現亢進を認めた。Six2の強制発現により3Dゲルでの尿細管の管腔構造の形成促進が認められた。AKIにおいてSix2-GDNF系は尿細管細胞の再生と形成に重要な働きをしている可能性が示唆された。以上のようにオートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態解明のため検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度はオートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態解明のためBNIP3やHSPB1(Heat shock protein beta-1, HSP27)、Six2-GDNF(glial cell-derived neurotrophic growth factor)系についての検討をおこなったが、平成25年度はその研究をさらに発展させる。 申請者らは、急性腎障害の回復期にSirt1が活性化される事を見いだし、2009年のアメリカ腎臓学会で報告している。Sirt1はミトコンドリア遺伝子の調節をしているがオートファジーとの関係は不明であり、急性腎障害の病態での二者の研究は極めて斬新でありSirt1のactivaterであるResveratrolのLC3-GFP TG マウス投与下での急性腎障害時のオートファジーの変化と腎機能への影響を検討する。また、オートファジーの調節をはかることでストレスにより酸化、劣化した蛋白質を除去することで、腎障害の軽減を試みる。同時にマイトファジーと互いに影響を及ぼしあっているシャペロン介在性オートファジーやマイトファジー、ユビキチン系の蛋白質分解系の腎疾患での病態生理に及ぼす影響を調べる方針である。 研究体制としては、トランスジェニックマウス(Mizushima N., Mol Biol Cell 2004)、LC3-GFPプラスミドを既に供与して頂いている。研究組織としては、申請者に加え、腎障害時の分子生物学的機構を今まで研究してきた大学院生、実験助手と共に、研究室責任者である寺田典生の指導のもとに行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
腎疾患患者の血清中のバイオマーカーを測定するための測定試薬を購入予定であった。測定するには検体数がある一定数集まる必要があるが、患者検体のため同意などが必要であり、一定数の検体が集まる年度末近くとなった。以上から当該試薬購入予定分が次年度平成25年度に繰り越しとなった。
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