研究課題
近年の日本において末期腎不全により透析療法に至っている患者数は30万人を越え、患者のQOLの改善や医療経済上の問題から腎不全への抜本的対策が急務である。各種腎障害時にはオートファジーの低下による異常蛋白の蓄積と細胞障害が病態に関与している可能性があり、また虚血などによる急性腎不全では、細胞が栄養飢餓状態となることで急速に誘導されるオートファジーの関与が考えられている。我々は、LC3(Light chain 3-II)-GFPトランスジェニックマウスを用いて急性腎障害時に起こるアポトーシスにオートファジーが先行することを報告しているが、他にも虚血再潅流や薬物、酸化ストレスの負荷などによる腎障害モデルにおいてオートファジーが尿細管を保護的に作用することが報告されるようになってきた。我々はオートファジーとアポトーシスが急性腎障害で観察される事を既に報告しているが、その情報伝達系と病態での役割は不明な点が多い。そこでまずミトコンドリアの機能に関わる遺伝子であるBNIP3の急性腎障害での働きを検討したところ、BNIP3が酸化ストレスにより尿細管細胞で誘導されることでオートファジーとアポトーシスの両者を調節していることが判明、急性腎障害の病態における重要な働きをしている可能性が示唆された。そこで我々はオートファジーと栄養低下時に誘導されるSirt1(サーチュイン)の腎障害での役割について、遺伝子改変マウスを使用し解析し、新規診断・治療法の開発を目指している。
2: おおむね順調に進展している
我々はオートファジーとSirt1の腎障害での役割について検討しているがオートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態での役割は不明な点が多く、その解明を行っている。これまで急性腎障害(AKI)においてsestrin2やBNIP3(Bcl-2/adenovirus E1B 19kDa-interacting protein 3)がautophagyを誘導することを我々は報告してきた。しかし、AKIにおけるautophagyとapoptosisの調節機序についてはあまり知られていない。Bcl-2 homology domain を持ちpromoter領域にHIF-1αの結合領域があるBNIP3の腎臓におけるautophagyとapoptosisとの関わりについて検討した結果、BNIP3はautophagyを誘導し、ストレス化でapoptosisをも亢進させた。また、BNIP3はmitophagyも誘導したことから、AKIにおけるautophagyの誘導にはHIF-1α-BNIP3経路が関与し、BNIP3はapoptosisとmitophagyの両者の誘導に関与していると言える。今回われわれはさらにVasohibin(VASH)のAKIにおける役割に注目した。VASHは血管新生に関する因子で、VASH-1とVASH-2が存在するが、その発現と働きを虚血再灌流モデルラットを用いて検討した結果、AKIにおいてVASH-1の発現は12-24時間で主に近位尿細管で発現亢進を認め、VASH-2も若干の亢進を認めた。また培養尿細管細胞において低酸素によりVASH-1は発現亢進を認め、VASH-1の強制発現によりSODとSirt1のmRNAと蛋白発現は亢進し、低酸素下でのapoptosisが減弱した。AKIにおいてVASH系は発現誘導され、低酸素下の尿細管の保護に重要な働きをしている可能性が示唆された。以上のようにオートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態解明のため検討を進めている。
平成25年度はオートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態解明のためBNIP3やVasohibinの系についての検討をおこなったが、平成26年度はその研究をさらに発展させる。申請者らは、急性腎障害の回復期にSirt1が活性化される事を見いだし、2009年のアメリカ腎臓学会で報告している。Sirt1はミトコンドリア遺伝子の調節をしているがオートファジーとの関係は不明であり、急性腎障害の病態での二者の研究は極めて斬新でありSirt1のactivaterであるResveratrolのLC3-GFP TG マウス投与下での急性腎障害時のオートファジーの変化と腎機能への影響を検討する。同時にマイトファジーと互いに影響を及ぼしあっているシャペロン介在性オートファジーやマイトファジー、ユビキチン系の蛋白質分解系の腎疾患での病態生理に及ぼす影響を調べる方針である。また、オートファジーとアポトーシスの腎障害における情報伝達系と病態を解明することでそれらの調節をはかり腎障害の軽減を試みる。研究組織としては、申請者に加え、腎障害時の分子生物学的機構を今まで研究してきた学生・大学院生、実験助手と共に、研究室責任者である寺田典生の指導のもとに行う。
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