研究概要 |
GABAリアルタイムイメージングシステムを用いて、予備実験を行った。アンジオテンシンII(Ang II)とD1受容体アゴニストであるFenoldopam(Fen)の刺激により、腎皮質からのGABA分泌が促進されることを突き止めた。その分泌動態は明らかに異なっており、血圧調節に重要な役割を果たしているAng II、ドーパミンなどから、GABAは異なる調節を受けていることが示唆された。さらに、生後4日のGAD67ヘテロノックアウト若年マウスの腎皮質には定常状態で多くのGAD67が発現し、持続的にGABAが分泌されていることを見出した。一方で、生後6ヶ月の同成熟マウスにおいては、GAD67の基礎発現が極めて弱いものの、GABA分泌はAng II等の刺激により促進された。加齢は高血圧発症の一因であるが、加齢によりGABAの産生分泌機能が変化し、高血圧の病態生理に影響していると予測される。 また、腎のGABA受容体発現に関する系統的報告が少ないため、高血圧モデルラットの腎皮質GABA受容体発現を解析した。コントロール(WKY)と高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて各GABA受容体mRNAをリアルタイムRT-PCR法により定量、比較した。脳にはすべてのGABA受容体コンポーネントが発現していた。一方腎皮質では、GABA(A)受容体α1, β3, δ, ε, π subunit、GABA(B)受容体R1, R2 subtype、GABA(C)受容体ρ1, ρ2, ρ3 subunitのみが検出された。腎臓には特徴的な末梢型GABA受容体の発現パターンが認められ、一部は高血圧や食塩負荷モデルで変化した。腎GABA受容体の構成と情報伝達を詳細に検討することで、腎による新たな血圧調節機構を明らかに出来得る可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
1. 腎GABAergic systemの構成要素に関する基礎的検討:近位尿細管培養細胞(NRK-52E、初代培養細胞等)や高血圧モデルラットを用いて、腎におけるGABA関連分子の発現を解析し、腎GABAergic systemの構成を明らかにする。リアルタイムPCR法、Westernblot法にて、GABAA, B, C受容体, GAD65, GAD67, GABA transaminase, GAT-1, -2, -3等のmRNA、蛋白発現を定量する。腎内局在については、マイクロダイセクション法や免疫蛍光染色法にて同定する。また、食塩負荷やAng II刺激によりこれらの発現が調節されているかどうかについても併せて検討する。2. 尿細管におけるGABA受容体の機能解析:GABAA受容体の機能を解析する。NRK-52E細胞を用いて、全細胞パッチクランプ法によりCl電流の測定を行う。GABA刺激によるCl電流の変化を観察する。同様にGABAB受容体の機能を解析する。時間分解蛍光測定法(HTRF)により、細胞内cAMP濃度の測定を行う。GABA刺激によるcAMP濃度の変化を観察する。3. GABA産生能の減弱と高血圧の発症維持機構との関連:GABA合成酵素であるGAD67のヘテロノックアウトマウスと野生型の表現型を比較する。慢性実験テレメトリー自動計測システム(PhysioTel)を用い、24時間血圧測定を施行する。定常状態に加え、食塩やAng II負荷などを加えた際の血圧変化や尿中GABA分泌能を分析する。
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