本研究は種々の慢性腎疾患において見られる腎尿細管上皮細胞への蓄積脂質について、基礎的な疑問を解決し、病態進展に対する蓄積することの意義を明らかにすること、さらにその蓄積脂質をターゲットとした臨床応用へと展開するための研究基盤を確立することを目的として検討を行った。 まず腎尿細管上皮細胞を使った脂質蓄積メカニズムに関する検討では、細胞内脂質の排出に関わるATP-binding cassette protein A1(ABCA1)分子の発現変動が細胞内脂質制御において重要であることを明らかにした。さらに細胞に対して炎症性刺激を加えることによって、細胞内脂質がさらに増加することを見出した。これらの蓄積脂質増加は核内受容体Liver X Receptor alpha(LXRa)を高発現させることによって抑えられることから、病態進展過程でのLXRaを中心とした腎における脂質代謝の変化を示唆しており、現在投稿準備中である。 本研究ではさらに、治療薬の腎選択的送達システムの構築を目指した検討も行った。その中でリン脂質、コレステロールなどで調製したリポソーム表面をカチオン性のリン脂質によって正電荷に修飾することによって、病態モデルに投与したリポソームの集積性が著しく低下する一方、ポリエチレングリコール(PEG)により修飾したリポソームは逆に集積が高まることを見出した。こちらの成果も現在投稿準備中である。 本研究により腎における脂質代謝の重要性と、そのメカニズムの一端が明らかとなり、今後詳細なメカニズムの解析と送達技術の洗練により、新しい腎疾患治療が確立する可能性がある。
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