研究課題/領域番号 |
23790958
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
駒場 大峰 東海大学, 医学部, 助教 (60437481)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 観察研究 / 費用対効果分析 / 二次性副甲状腺機能亢進症 / シナカルセト塩酸塩 / 99mTc-MIBIシンチグラフィ |
研究概要 |
本研究の全体構想は,透析患者の最も深刻な合併症である二次性副甲状腺機能亢進症に対する治療戦略について,医学的・経済的観点から最も適切な治療方針を確立することである。本研究では,大規模コホートを用いて臨床データを収集し,さらにこれを二次利用し,費用対効果の観点から妥当かどうかに関しても検証することを計画している。 大規模コホートでの観察研究に関しては,2年間の観察期間が終了するまでは,二次性副甲状腺機能亢進症に対する治療や検査が患者予後に及ぼす影響は解析できない状況にある。そこで我々は過去の文献やエキスパートオピニオンを参考に推定値を割り出し,シミュレーション分析を行った。 まずシナカルセト塩酸塩の費用対効果について検討した。シナカルセトは二次性副甲状腺機能亢進症の治療に有効であるが,欧米の分析では医療経済的には優れないことが示されている。しかしこれらの解析は副甲状腺摘出術(PTx)が実施可能であることが前提となっており,諸事情により実施不可能な症例も存在することが考慮されていない。そこで本研究では,わが国おけるシナカルセトの費用対効果をPTx可能な症例,不可能な症例を分けて検証を行った。その結果,シナカルセトはPTxが実施不可能な状況においてのみ費用対効果に優れることが明らかとなった(Komaba H et al. Am J Kidney Dis, in press)。 次に我々は,異所性副甲状腺の位置同定に有効な画像検査である99mTc-MIBIシンチグラフィの費用対効果について,持続性・再発性副甲状腺機能亢進症の患者を対象に検討を行った。その結果,再手術の術前に99mTc-MIBIシンチグラフィを行うことは費用対効果の観点から妥当であることが明らかとなった(2012年5月に49th ERA-EDTA Congress, Parisで発表予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模コホートでの観察研究に関しては,倫理委員会の承認を得た上で,各協力施設の支援の下,透析患者の臨床データの収集は既に開始している。あとは2年間の観察期間が終了するのを待つ状況となっている。このような大規模での観察研究はわが国では非常に少なく,国際的に優れた透析医療を提供しているわが国からのエビデンス発信に大きな貢献が期待される。 このように観察研究のデータ収集が完了するまでは,これを用いた解析はできない状況であるが,この期間にも研究業績を出すべく,我々は過去の文献やエキスパートオピニオンを参考に推定値を割り出し,シミュレーション分析を行っている。 その結果,上述の通り,我々はシナカルセト塩酸塩の費用対効果がPTx可能か否かによって影響を受けることを明らかにし,本研究業績は当該領域のトップジャーナルの一つであるAmerican Journal of Kidney Diseaseに先日,アクセプトされたばかりである。また異所性副甲状腺の位置同定に有効な画像検査である99mTc-MIBIシンチグラフィの費用対効果についても検討し,再手術の術前に99mTc-MIBIシンチグラフィを行うことが費用対効果の観点から妥当であることを示した。本研究結果は,5月にパリで開催される49th ERA-EDTA Congressの演題にも採択され,発表する予定となっている。 以上の状況より,本研究の現在までの達成度は,おおむね順調に進展していると考えられる。観察研究のデータが利用可能になれば,さらなるエビデンス創出が可能になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在の最大のテーマは,進行中の観察研究のデータ収集を完遂することである。このような試みは各協力施設では前例に乏しいため,申請者のこれまでの経験を最大限に生かし,精度の高いデータ収集を行いたいと考えている。 また危惧される可能性として,現在行っている前向き研究において,患者同意の撤回やドロップアウトなどの諸事情により,十分なサンプルサイズが得られない可能性も考えられる。そのため申請者は後向き研究も同時に計画しており,現在のところ,このデータ収集も順調に進展している。 以上の通り,臨床データの収集に関しては,解析に必要な量・質を備えたものが入手できるものと考えているが,何らかの事情によりこれが困難となった場合は,次善の策として,過去の文献やエキスパートオピニオンを参考に推定値を割り出し,シミュレーション解析を行うことも考えている。我々は既にこの方法を用いて,観察研究の準備,進行中に,既に2つのリサーチクエスチョンに関して研究業績を出しており,方法論は確立している。推定値の使用が結果に与える影響が危惧される場合は,感度分析を行うことによって客観的な検証が可能と考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画段階では,平成23年度に150万円の経費を見込んでいたが,購入予定であった統計ソフトを学内で無料で使用できる環境になったこと,2回予定していた国際学会への参加が中止となったこと,無料の会議室を使用したこと,研究補助者をボランティアで賄えたことなどが重なり,結果的に120万円の残額が発生することとなった。 残額を翌年度に使用する計画としては,現在,観察研究が進行中であり,患者背景や日常診療で得られる採血結果を収集中であるが,施設によって測定アッセイが異なるものに関しては,保存血清を用い,統一したアッセイで再測定することも考えている。この場合に,追加の費用が発生する可能性がある。また日常診療では測定されない検査項目も,患者予後に関連することが報告されており,このような項目の測定に費用を充てることも考慮している。また既存の設備では,これらの血清を保存するディープフリーザーのスペースに限りがあるため,新たにディープフリーザーを購入するための経費に充てることも検討している。 観察研究の臨床データのみでは,費用対効果分析を行うために必要な情報が得られない場合や,臨床データの収集が何らかの事情により困難となった場合は,過去の文献やエキスパートオピニオンを含め,あらゆる情報を収集し,シミュレーション解析に利用することを考えている。その場合,臨床データの情報収集のため,学会や研究会に出張することも考慮する予定である。この交通費や宿泊費に費用を充てる可能性がある。 解析に必要なコンピュータや統計ソフトは利用可能な状況にあり,最低限の解析は行える状況にある。しかし今後,より複雑な解析を行うために統計ソフトを新規購入することや,臨床データの解析を複数のスタッフで同時進行できるよう,複数のコンピュータを購入することも検討している。
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