研究課題/領域番号 |
23790982
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
他田 正義 新潟大学, 脳研究所, 助教 (10467079)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ポリグルタミン病 / 脊髄小脳変性症 / 重合体 / 治療薬開発 |
研究概要 |
ポリグルタミン(polyQ)病は,原因遺伝子内のCAGリピートの異常伸長により生じる遺伝性神経変性疾患であり,病態を抑制する有効な治療法の開発が切望されている.異常伸長polyQ鎖を持つ変異蛋白は自己重合する特性を有し,可溶性の重合体には強い細胞障害性がある.本邦で最多のpolyQ病である脊髄小脳変性症3型の原因蛋白の二量体形成を阻害する薬剤の開発を目的とし,以下のことを実施した.(1) Protein fragment complementation assay法を用いて,培養細胞内での変異polyQ蛋白の二量体形成を蛍光値として検出できる細胞解析系を樹立した.本細胞系を用いて候補薬剤の二量体形成阻害効果を調べた.Doxycyclineにより変異蛋白を発現誘導し,24時間後に培養液中に薬剤を投与し,細胞の蛍光値により薬剤の二量体形成阻害効果を解析した.細胞株の樹立に時間を要したため今年度は少数の薬剤を解析したのみだが,少なくとも3剤において有効性を確認した.(2) 蛍光標識した異常伸長polyQ鎖を発現するpolyQ病モデル線虫の特性を明らかにした.また,分子シャペロン調節薬の効果を,本TG線虫を用いて明らかにした.具体的には,TG線虫の運動能は野生型と比べ幼虫期にいったん亢進したが,成虫になると急激に低下した.TG線虫の封入体数は日齢8 で最大数となり,その後プラトーとなった.弱変性条件下でのアガロースゲル電気泳動により分離されるpolyQ蛋白の重合体は日齢6で最大となった.17-AAG はTG線虫の成虫期の運動能を改善し,封入体数を減少させ,寿命を延長させた.また,成虫期の重合体量を減少させた.候補薬剤にはすでに臨床使用されている薬剤を多数含んでおり,臨床応用可能な新たな治療薬が開発できる可能性が高い点で意義が大きい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) Protein fragment complementation assay法を用いた,細胞解析系による変異polyQ蛋白の二量体形成阻害効果の検証については,細胞解析系の樹立に難渋し予想以上に時間を要した.ようやく細胞系を確立し,少数の化合物について二量体形成阻害効果を確認することができたが,予定よりも達成度は遅れた.次年度は,本システムを用いて30~の薬剤の有効性を調べる計画である.(2) polyQ病TG線虫を用いた候補薬剤の有効性の検討については,今年度は野生型との比較によりTG線虫の特性を明らかにし,既にpolyQ病のモデル動物において有効性が示されている分子シャペロン調節薬の有効性を明らかにすることができた.これにより,本TG線虫が二量体形成阻害薬のスクリーニングに利用可能であることが明らかになった.新規薬剤の効果判定を行えなかった点で達成度は遅れたが,次年度は本TG線虫を用いて新規候補薬剤の有効性の検討を行う計画である.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 上述の細胞解析系を用いて,約50の化合物について変異polyQ蛋白の二量体形成阻害効果を検証する.調べる化合物の選定は,既にルシフェラーゼ-PCA法を用いたHigh throughput screening により約2200の化合物の中から二量体形成阻害効果が確認できた化合物の中で,臨床応用可能と考えられるものを選定した.具体的には,Doxycyclineで発現誘導し24時間後から培養液中に化合物を加え,薬剤濃度と反応時間を振って,細胞の蛍光値の変化をフローサイトメーターを用いて定量的に解析する.濃度・時間依存的に効果を示し,かつ有意な細胞毒性を示さない薬剤を選定する.(2) (1)で用いた薬剤の中で,細胞解析系において二量体形成阻害効果が確認できた薬剤を中心に,polyQ病TG線虫を用いて薬剤の有効性を検証する.TG線虫は摂氏20℃で同調培養し,餌に薬剤を混合して培養し,変異polyQ蛋白の封入体数,線虫の運動能,生存率を測定する.また,弱変性条件のアガロースゲル電気泳動により重合体を検出し,薬剤による変化を解析する.(3) 候補薬剤が個体において神経変性を改善するかを明らかにするために,ヒトAT3(Q84)を発現するYACトランスジェニックマウスを用いて薬剤の有効性を検討する.具体的には,ホモ,ヘテロ,野生型の3群を,生後2週目から2~4週間隔て体重測定,運動能評価,歩容・肢位異常などの観察を行う.生後5週目から25週目まで生理食塩水に溶解した薬剤を週1回腹腔内投与するか,または週3回経口投与する.経時的にマウス全脳を採取し,神経変性の程度,封入体数について病理学的に解析する.また,凍結脳組織を用いて,変異polyQ蛋白量や重合体量を生化学的に解析する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究課題の遂行においては,現在の設備備品の使用を想定しているため,研究費は (1) 消耗品,(2) 旅費,(3) その他に対して使用する.(1)消耗品:細胞培養試薬や遺伝子工学用試薬,TG線虫の維持や解析のための試薬,マウスの飼育や病理学的検索に関わるものが中心となる.(2)旅費:研究成果発表および情報収集のための旅費である.(3)その他,研究成果を論文発表する際にかかる諸費用である.
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