研究課題/領域番号 |
23790983
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
野崎 洋明 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (20547567)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | HTRA1 / CARASIL / 脳小血管病 |
研究概要 |
当該年度において,High Temperature Requirement A1(HTRA1)変異の機能解析と脳小血管病患者のDNAサンプルの収集を行った.まず,c.905G>A(p.Arg302Gln)ヘテロ接合者の末梢血リンパ球からmRNAを抽出し,逆転写反応によってcDNAを合成した.得られたcDNAの塩基配列をダイレクトシーケンス法で解析し,野生型HTRA1遺伝子と変異型HTRA1遺伝子由来のmRNAがそれぞれ同等に発現していることを確認した.次に,C末にHisタグをもつ野生型HTRA1のcDNAが挿入されたpcDNAベクターを鋳型として,gene tailor mutagenesis systemを用い,変異型HTRA1発現ベクターを作成した.Free style 293 細胞に変異型HTRA1あるいは野生型HTRA1を強制発現し,His Trap columnを用いて細胞培養液中のHTRA1を精製した.FTCでラベルされたβカゼインを器質として,精製HTRA1と混合し,器質が切断された際に発生する蛍光値を測定することでプロテアーゼ活性を評価した.その結果,新規変異型HTRA1は野生型HTRA1に比して顕著なプロテアーゼ活性の低下を示した.さらに,野生型HTRA1の多量体形成能をBlue Native Gel Electrophoresisで評価したところ,6量体に相当する高さにバンドを認めた.また,野生型HTRA1と変異型HTRA1が複合体を形成することを免疫沈降法によって確認した.以上の結果は,p.Arg302Glnが野生型HTRA1蛋白に対してドミナントネガティブに働き,HTRA1のプロテアーゼ活性低下に依存して脳小血管病を発症する可能性を示唆している.脳小血管病患者のDNAサンプルの収集については,これまでに80例を収集できている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者らは,常染色体劣性遺伝性の脳小血管病であるCARASILの原因遺伝子HTRA1を単離した.CARASILはHTRA1変異のホモ接合体により,HTRA1のプロテアーゼ活性の低下がすることによって発症する.本研究の過程で,申請者はCARASILに類似した臨床像を呈し,HTRA1の新たな点変異をヘテロ接合体で有する症例を経験した.本研究の目的は,脳小血管病における新規HTRA1変異ヘテロ接合体の病的意義を,多数例の解析から明らかにすることである.また,ヒトHTRA1が多量体を形成することを示し,見いだされた変異がHTRA1の機能に与える影響を明確にすることである. 当該年度に,新規変異であるp.Arg302Gln(c.905G>A)のプロテアーゼ活性が野生型HTRA1に比して顕著に低下していることを示したことは,病態機序にせまるものである.また,新規変異のヘテロ接合者の生体内において,対立アレル由来の野生型HTRA1 mRNAが,変異由来のmRNAと同等に発現していることを確認し,さらに野生型HTRA1が6量体を形成すること,p.Arg302Glnが野生型HTRA1と複合体を形成することを示したことは,研究計画に沿っており,新規変異型HTRA1が野生型HTRA1に対して,ドミナントネガティブに働くという新たな病態機序が存在する可能性を示唆するものである.ほぼ研究計画を立案した時点で予想された結果と一致しており,次年度の大幅な実験計画の修正は不要である. 本研究では,平成23年度の目標として,脳小血管病患者100例のDNAサンプル収集を掲げていたが,年度末の時点で100例に達していないため,やや遅れているとの評価にした.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果が研究計画立案時に想定したものと一致したため,次年度の研究計画の大きな変更はない.本研究課題の今後の遂行については,多数例での解析と新規変異のドミナントネガティブ効果の検証を行うことが中心になる.まず,引き続き,脳小血管病患者のDNAサンプルの収集を行い,目標サンプル数を達成するようにする.次年度に使用する予定の研究費が生じた理由としては,本年度中に目標としたサンプル数に到達しなかったため,多数のサンプルについて,ダイレクトシーケンス法による塩基配列解析を行わなかったことが理由としてあげられる.DNAサンプルは速やかに目標に達する見込みであり,収集でき次第,塩HTRA1翻訳領域の基配列解析を行い,脳小血管病におけるHTRA1変異の出現頻度を明らかにする.さらに,コントロール群として非認知症群の塩基配列解析を行い,HTRA1変異の出現頻度の比較を行う.新たなHTRA1変異が見出された場合は,さらに個別に機能解析を追加する. 変異型HTRA1のドミナントネガティブ効果については,HTRA1の多量体形成能とプロテアーゼ活性に与える影響の双方について,検討を加える.まず,Free style 293 細胞に変異型HTRA1あるいは野生型HTRA1を強制発現し,His Trap columnを用いて細胞培養液中のHTRA1を精製する.精製した野生型HTRA1蛋白に,変異型HTRA1蛋白を1:0,1:0.5,1:1の比になるように混合し,多量体形成能をBlue Native Gel Electrophoresisによって,プロテアーゼ活性をFTCでラベルされたβカゼインによって,それぞれ評価し,ドミナントネガティブ効果について検討する.こういった方法で明らかな効果を示せない場合は,HTRA1の特異的基質であるLAPやTGF-βシグナルの活性を検討する実験を加える.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は現有の設備備品の使用を想定しており,新たな設備投資の必要はないため,以下に示す通り,消耗品費,旅費,その他に対して計上した.1) 消耗品費:平成24年度 1,400 千円.多数のDNAサンプルについてダイレクトシーケンス法による塩基配列解析を行うため,試薬であるBigDye Terminator(Applied Biosystems)を購入する.また,本研究では,培養細胞にコンストラクトを強制発現して解析を行うため,Lipofectamine2000も購入する必要がある.さらに, Western Blotting法のための抗体,酵素活性を測定するFTC-caseinの購入費用にあてる.2) 旅費:平成24 年度 500 千円. 研究成果発表のため,国内学会および国外学会への参加費および経費を計上した.3) その他:平成24 年度 200 千円.論文投稿料,英文校閲料を計上した.
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