研究課題/領域番号 |
23790987
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯島 正博 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), COE特任助教 (40437041)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 脱髄 / 軸索障害 / axon-glial interaction / TAG-1 / ノックアウトマウス |
研究概要 |
1) 脱髄性ニューロパチーにおけるaxon-glial interaction関連分子群の軸索障害病変惹起への関与とその機序の解析 脱髄性ニューロパチーとして慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーとパラプロテインを伴うニューロパチーの症例から採取した生検神経をときほぐし標本とし、形態学的・免疫組織学的解析を施行した。CIDPは多様な臨床像を示す症候群としての特徴から今のところ均質な結果は得ていないが、IgM gammopathy、とくに抗MAG抗体陽性のニューロパチーは発症年齢や性差はもとより遠位優位型・感覚優位型の臨床像など共通の病態が期待される。これまでの解析から抗IgM抗体と抗MAG抗体の共存と同部位におけるparanode-juxtaparanodeの構造的変化、電顕によるニューロフィラメント密度の変化から軸索障害の有無を評価した。現在はCIDPの臨床的多様性に対応した変化の有無を解析するため、typical CIDPにあたる症例の蓄積を試みている。2) TAG-1ノックアウトマウスへのexperimental autoimmune neuritis(EAN)惹起による軸索障害機序の検討 脱髄性ニューロパチーのモデとしてEAN惹起マウスを作成しつつある。C57BL/6マウスのTAG-1をノックアウトし、免疫組織学的・western blottingによりノックアウトを確認した。TAG-1は神経系への特異的な発現が指摘されているが、ノックアウトマウスでは出生時より顕著な体重減少を呈する。さらにP0蛋白を構成する抗原ペプチドを2種類作成し、アジュバントとともに免疫誘導を行っている。脱髄性ニューロパチーは脱髄に引き続き軸索-髄鞘間の相互作用を通じ再髄鞘化機転に移行することから、末梢神経形成期に表現型に影響するTAG-1ノックアウトマウスは本研究に有用と考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 脱髄性ニューロパチーにおけるaxon-glial interaction関連分子群の軸索障害病変惹起への関与とその機序の解析 ヒトサンプルを用いた免疫組織学的解析として、Na channel、Kv channel、CNTN等の特異的分布が指摘される分子の検出が安定して可能となっている。抗MAG抗体陽性のパラプロテインを伴うニューロパチーは臨床像が比較的均質なこともあり、一定の予想に対応した結果が得られつつある。ただしCIDPは、typical CIDPとatypical CIDPの間では臨床像ならびに治療反応性も異なることが指摘されており、病態の異なる亜型が解析対象に紛れ込む危険が高いと考えられる。また施設の特性上神経生検を施行する症例にatypical CIDPが占める割合は高いと考えられ、typical CIDPのサンプルは不足している。当施設では多くのCIDP症例が来院・治療を受けていることから、この問題は一定の時間さえ確保できれば解決が可能と考えられる。またatypical CIDPは一部に難治化の傾向が予想されることから、atypical CIDPのなかでも共通の臨床像を有する症例の蓄積が果たされた場合には、難治性ニューロパチー自体の病態解明につながる可能性が期待できる。2) TAG-1ノックアウトマウスへのEAN惹起による軸索障害機序の検討 すでにTAG-1ノックアウトマウスを確保した。これは出生直後より高度の体重減少をきたすなどの臨床表現型は研究の目的に合致している。その反面、繁殖効率の低さとEAN惹起効率の低さは問題である。今までの経験からTAG-1-/-同士の交配では妊娠・出産は確認できず、必要なTAG-1-/-個体の確保には+/-同士の交配からの選別が必要である。また出生後も体格面で正常マウスより不利であり、脱落するTAG-1-/-ホモ個体は多い。
|
今後の研究の推進方策 |
1) 脱髄性ニューロパチーにおけるaxon-glial interaction関連分子群の軸索障害病変惹起への関与とその機序の解析 抗MAG抗体陽性のパラプロテインを伴うニューロパチーについて、さらに症例を蓄積して結果の裏付けを行っていく。またCIDPに関してはtypical CIDPだけでなく、DADSやMADSAMニューロパチーなど、いわゆるatypical CIDPの臨床的特徴に対応させた解析を行っていく。さらに過去に我々が報告した、TAG-1 SNPと治療反応性の関連性の結果を確認するため、SNPハプロタイプと治療反応性、さらに生検神経の免疫組織学的解析を連結し、共通するaxon-glial interactionの変化の有無について確認する。2) TAG-1ノックアウトマウスへのEAN惹起による軸索障害機序の検討 前述のように、TAG-1-/-の出生直後から持続する発育不良と、繁殖効率の低さ、さらにEAN惹起効率の低さを解決するためには、十分な数の実験動物を確保する必要がある。そこで、人工授精で得た受精卵をもとに必要個体の確保を試みる。これらに前述のP0ペプチドをアジュバントとともに免疫、賦活しEANが誘導されたTAG-1ノックアウトマウスを解析するのが本研究の目的であり、機能解析や形態学的・免疫組織学的解析に加え、電気生理学的特徴を解析する。仮に電気生理学的に脱髄を示唆する所見が得られたならば、sciatic nerveを採取し、axon-glial interactionにかかわる分子群の発現変化を解析する。さらにEANによる脱髄誘導以外にも、より慢性進行性の特性を有するB7-2-/- NODマウスの入手を試み、成功した際にはTAG-1ノックアウトマウスと交配することで脱髄発現後の軸索障害への影響を解析する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1) 脱髄性ニューロパチーにおけるaxon-glial interaction関連分子群の軸索障害病変惹起への関与とその機序の解析 ヒト生検神経を対象にした形態学的・免疫組織学的解析を症例を蓄積しながら継続するために、適宜必要な抗体の補充を行う。またSNPハプロタイプ解析については、過去の報告で用いた質量解析による候補SNPのジェノタイピング以外にも、次世代シークエンサーを用いたより詳細・効率の良いジェノタイピングにより新規SNPや変異の検出を試みる。次世代シークエンサーは当施設では共通実験機器として利用できるか検討しており、稼働に伴う試薬の負担のみが実際の必要経費であることから本研究費で賄うことが可能である。2) TAG-1ノックアウトマウスへのEAN惹起による軸索障害機序の検討 用いる実験動物が繁殖効率・EAN惹起効率ともに低いことから、通常の繁殖方法では必要な数の実験動物の確保が困難である可能性がある。そこでTAG-1-/+同士、-/+とwild typeの組み合わせにより得た受精卵から人為的かつ同時期に出生させる。この手技により同じ週齢の実験動物の確保を目指す。当施設動物実験部門と学外受託先との共同で系統の維持と必要マウスの確保のために研究費を使用する。また脱髄を検出するための免疫組織学的解析の他に電気生理学的な脱髄所見の検出を試みるが、ヒトを対象にした電気生理学用機器は高価かつマウスに使用するには非効率であるため、刺激装置や検出装置、増幅装置等を個々にカスタマイズした実験動物用の神経伝導検査機器を作成する予定であり、この機器購入のために研究費を使用する。さらにEAN惹起したマウスから得たsciatic nerveを対象にマイクロアレイチップやリアルタイム定量PCRによる遺伝子発現解析を行う予定である。そのための費用として次年度の研究費を使用する計画を立てている。
|