研究課題/領域番号 |
23790997
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
立石 貴久 九州大学, 大学病院, 講師 (50423546)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / FUS / 神経化学 / サイトカイン / ケモカイン / 神経病理学 |
研究概要 |
私たちはFUS遺伝子変異を伴った家族性ALSの日本人大家系を初めて報告し、その臨床・神経病理学特徴を明らかにした(Tateishi et al, Acta Neuropathol, 2010)。FUS遺伝子のR521C遺伝子変異により核蛋白であるFUSの核への移行障害が生じ、その異所性局在により細胞質内に封入体を形成すること、長期間の経過により中枢神経系に多系統変性と神経細胞内に好塩基性封入体を伴うことを明らかにした。また孤発性ALS剖検ではVEGFの発現を促す転写因子hypoxia-inducible factor-1α (HIF-1α)の発現が細胞質では増加し、核内では低下していることを見出し、HIF-1αが細胞質から核内に移行する経路に異常があることを発見した。FUS は HIF-1α や TDP-43 と同様に核内転写因子であり、 遺伝子の転写や選択的スプライシングの調節に関与している。これらのことから、TDP-43、HIF-1α、FUS等の核内転写因子が、共通して細胞質から核内へ移行する過程が障害されることでALS を発症するという仮説を立てた。ALSのモデルマウスである変異SOD1トランスジェニック(Tg)マウスでは発症前から、コントロールマウスと比較して脊髄前角細胞の細胞質においてHIF-1αの発現が亢進している一方、同時期よりVEGFの発現は低下していた。さらにmSOD1Tgマウスでは前核細胞の細胞質においてHIF-1αとカリオフェリンβ1とが共存し、カリオフェリンβ1は核膜表面でNup62と共存していた。これらの結果によりmSOD1TgマウスではHIF-1αは細胞質内を正常に輸送されるが、前角細胞内への移行が障害された結果、前核細胞でのVEGFの発現が低下することで運動神経細胞が障害にいたることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALSのモデルマウスである変異SOD1トランスジェニック(Tg)マウスでにおいて、HIF-1αは細胞質において発現が亢進している一方、同時期よりVEGFの発現は低下していた。転写因子であるHIF-1αはmSOD1TgマウスではHIF-1αは細胞質内を正常に産生・輸送されるが、前角細胞内への移行が障害されていることを明らかにすることができた。その結果、前核細胞でのVEGFの発現が低下し、運動神経細胞の変性に関与していると考えており、他の転写因子でも同様な核膜移行障害がALSが存在し、ALSの病態に関与しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は培養細胞においてHIF-1αの核膜以降障害の有無を検討する一方、mSOD1Tgマウスと培養細胞におけるFUSの核内移行障害の有無について核膜移行を中心に検討し、核膜移行障害を改善することによりALSの発症および進行を遅らせることも検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
ALSモデルマウスであるmSOD1Tgマウスの飼育、培養細胞を用いた実験に関わる試薬、病理学的検討に必要な抗体、試薬の費用、および国内および国際学会での発表旅費に使用する予定である。
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