研究課題/領域番号 |
23791001
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
久住呂 友紀 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (60398625)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 細胞老化 / アルツハイマー病 / 受容体 / 分泌因子 / Ecrg4 / 認知症 |
研究概要 |
平成23年度は、まず初めにアルツハイマー病モデルマウスとしてもっともpopularに用いられているTau transgenic mouse (CAMKII-4R) を用いて、元来in vitroの現象とされていた"細胞老化"のメカニズムが関与しているかを検討した。Tau-Tg mouse (8.5、25-26カ月齢)、Non-Tg mouse (8.5、25-26カ月齢) に関して脳切片を作成し、細胞老化のマーカーとして確立されているSA-β-gal染色、および我々が新規細胞老化誘導分泌因子として報告したEcrg4による染色、cyclin D1、D3による染色を行い、細胞老化と細胞周期との関係を検討した。染色ではTgおよびNon-Tg間で差がはっきりしなかったため、さらに脳組織よりcDNAを作成しqPCRを行ったが、やはり差は明らかではなかった。現在、同様の研究をApoE4 transgenic mouseにおいても進めているところである。また、Ecrg4が分泌因子であり、疾患の薬剤としての応用が期待されることから、受容体検索も進めている。Ecrg4-Fcを強制発現させた細胞の培養液を回収し、数種類の細胞に添加し、抗Human-IgG (Fc specific) 抗体を用いて免疫染色したところ、OPC系 (CG4細胞) の細胞でレセプターを多量に発現していることが再度確認された。次にCG4細胞を用いて、Ecrg4-FcあるいはコントロールとしてHuman IgG Fcを添加し、6-12時間培養の上、細胞を回収してタンパクを抽出。タンパク抽出液にプロテインGを加え沈降させ、SDS-PAGE、銀染色を行い、コントロールとのバンドの違いが綺麗に見える条件を検討しており、質量分析にかける準備をしているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
疾患マウスの解析に関しては、Tau transgenic mouse (CAMKII-4R)、ApoE4 transgenic mouseと、ほぼ計画通り進行している。ただ、Tau transgenic mouseに関しては、予想通りの結果が得られていないため、ApoE4 transgenic mouseの解析を進行中である。もともと、ApoE4型のアルツハイマー病患者の海馬の網羅的な遺伝子発現解析で、Ecrg4の著明な発現上昇 (正常老人と比較して13.7倍) を認めると報告されていることから、ApoE4とEcrg4が何らかの関係を持っている可能性が高く、今後の結果が急がれる。Ecrg4受容体検索に関しては、今回、タンパク抽出液にプロテインGを加え沈降させるという新たな手法を試みているため、予想外に研究が難航している。Human IgG Fcを添加したコントロールのものでも非常に密にバンドが銀染色で得られており、解析が難しくなっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は引き続き、疾患マウスと細胞老化との関連を検証していく。昨年度はTau transgenic mouse (CAMKII-4R)、ApoE4 transgenic mouseと解析をすすめてきた。今後は(1)Tau transgenic mouseの脳組織からタンパク質を抽出してEcrg4、細胞周期因子のウェスターンを行ない、タンパクレベルでの定量的な解析を行う、(2)ApoE4 transgenic mouseについてさらに個体数を増やして解析する、(3)TauとApoE4 mouseが上手くいかないようであれば、SOD1 mouseの脊髄も解析していく予定である。Ecrg4受容体同定にむけては、まずは昨年同様にCG4細胞にEcrg4-Fcを添加し、得られたタンパク抽出液にプロテインGを加え沈降させ、SDS-PAGE、銀染色を行う。条件を試行錯誤しているが、バンドを切り出してmass spectrometryにかける状況にまで持っていけないようであれば、報告者のもと留学先である理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 近藤亨氏とも相談しながら、別の手法により受容体を検索していく。その一つとして思案中であるのは、「膜タンパク質ライブラリ」技術を用いた受容体探索を委託により自分の実験と並行して行っていくことを考えている。「膜タンパク質ライブラリ」は細胞膜に存在する全ての受容体を人工リポソーム上に再構成したエマルジョン溶液で、この技術によって未知の受容体やリガンドを探索・同定できると報告されている。受容体同定後は、Ecrg4リガンド結合によって活性化されるシグナル伝達経路の探索を行う。同定した受容体に関連すると報告されているシグナルに関わる分子と細胞老化との関係を分子生物学的手法を用いて明らかにしていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今回、実験動物については、他施設から慶應への搬入の煩雑さなどから、共同研究先の理化学研究所 脳科学総合研究センター (高島明彦ら)に直接行って実験をしていることから、当初予定されていた実験動物飼育に全く費用がかかっていない。また、CG4細胞培養には、こまめなmedium changeが必要なことから、当初予定していた学会への参加も時間的な余裕の関係で実行できていない。これらのことから、23年度は繰越金が生じた。平成24年度は、独自に進めているEcrg4受容体探索研究に加えて、「膜タンパク質ライブラリ」技術を用いた受容体探索を委託することにより、受容体同定の確率を高めていく予定である。そのため、当初から予定している実験費用に加え、昨年度未使用の研究費が必要となることが予想される。疾患マウスの研究、Ecrg4受容体同定後のシグナル伝達経路の探索に関しては予定通り推進する予定である。平成24年度は、認知症、分子生物学関連の学会への参加・発表なども予定しており、また論文発表にむけてのデータの整理などもすすめている。
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