研究課題/領域番号 |
23791002
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
西本 祥仁 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (30398622)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) / TDP-43 / LIN28 / ADAR2 / 胚性幹細胞 (ES細胞) / 運動神経細胞 |
研究概要 |
我々の研究室では, in vitroで分化誘導した運動神経細胞を用いて,ALS病態機序による細胞死を再現し得るモデル作りを治療開発へ向けての最初のステップとして考え,その確立を目指してきた.一方もう一つの柱としてALSにおける疾患特異的,細胞選択的変化の検索についても進めてきた.そして今回,本助成を受けて我々は,ALSの細胞生存に関わる因子としてLin28を候補に挙げて研究を行った.まず初めに,in vitroにおけるLin28の発現系とノックダウンの系を確立した.そしてコントロール症例のヒト全脊髄抽出液を用いて免疫ブロットを行ったところ,LIN28がタンパク質レベルでほとんど発現していないことを確認した.従ってコントロール症例, ALS症例のLIN28タンパク質, lin28 mRNAの発現レベルの検討は,組織内における細胞レベルを対象としての免疫染色,in situ hybridizationで検討する方針で現在研究を進めている. また,各種TDP-43バリアント, 変異型TDP-43の細胞毒性を検討するため,ヒトES細胞由来の運動神経細胞への各種ベクター導入条件の検討も試み,すでにこれを確定した.さらに細胞死のスクリーニングについても, 我々の用いているES細胞由来運動神経細胞の系で適切にこれを評価できる方法を確立した.また, 各種TDP-43バリアントフォームに関連する可能性のあるTDP-43ゲノムの特定領域をシークエンスした結果,single nucleotide polymorphism(SNP) が集中して高頻度に存在する可変性の高い領域の同定に至った.さらにALSにおいて重要なRNA編集酵素ADAR2のshRNAによるレンチウイルスおよびその構成ベクターを活用することにより,ES細胞由来の成熟運動神経細胞においてもADAR2のノックダウンが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点では,LIN28Aに関してはin vitroの系において発現,ノックダウンが可能な段階にある.成人(成熟)ヒト全脊髄組織においてはタンパク質レベルでのLIN28の検出は困難であったが,免疫染色,in situ hybridizationでヒト脊髄組織前角内の運動神経細胞での変化が同定できた場合,in vitroの運動神経細胞の系を活用することでLIN28の細胞死への寄与の検討がすぐに可能な段階にある.また,細胞死との関連が明らかになれば,TDP-43その他関連分子への影響もin vitroで検討することができる. 一方で,仮にLIN28のALSにおける特異的変化が認められない場合においても, 各種TDP-43バリアントおよび変異型TDP-43の導入による検討はin vitroでは他の細胞(HeLa細胞)を用いた時の実績がある上,すでにin vitroでの運動神経細胞への導入,その他の実験条件は確立済みである.現在行っている各種TDP-43,変異型TDP-43の運動神経細胞への影響の検討についてのデータの信頼性を増すことにより,少なくともそのgain of toxic function への寄与の有無を明らかにすることができる見通しが立っている.以上の研究の推進状況からおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
1) ヒト脊髄成熟運動神経細胞でのLIN28のコントロール症例とALS症例の運動神経細胞での発現レベルおよび局在の変化の有無の検討をタンパク質,RNA両レベルにおいて行う.そのために,確実な染色評価に必要な適切なコントロールを選択し,免疫染色条件,in situ hybridization条件の確立をまず目指す方針である.2) 各種TDP-43バリアント,変異型TDP-43の細胞毒性を検討する.3) ADAR2をノックダウンした系におけるLIN28, lin28 mRNAを含むALSの各種関連分子変化,細胞死寄与について検討を行う.4) ゲノムの過剰可変領域周辺のスプライシング等のRNAプロセシング変化を実際のコントロール症例とALS症例とを比較して検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
ヒトES細胞由来の運動神経細胞のトランスフェクションに必要な試薬一式,細胞維持,遺伝子操作のために必要な試薬,RNA プローブ作成のための試薬,その他分子生物学的手法一般に用いる試薬および消耗品一式,国内,国際学会参加に要する費用,データの取得,解析,保存に必要な消耗品一式に使用する予定である.なお,論文の内容充実を図るため平成23年度の投稿は見送られたことから,平成23年度に使用が予定されていた英文校正, 印刷費, 論文別刷等の論文作成のための諸経費は,翌年度の同目的のために使用する予定である.また,効率的な物品調達を行った結果発生した平成23年度の未使用額も平成24年度の消耗品購入に充てる予定である.
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