研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は,意識を清明に保ったまま数年内に上位, 下位運動神経細胞が変性死を引き起こす,世界的に見ても治療法の開発が一刻も早く期待されている疾患の一つである.今回, 我々は過去のTDP-43ノックダウンに伴う網羅的解析の報告から, ALSにおいてlet-7bの上昇とそれに伴い制御されるLIN28の発現低下が起こっているとの仮説をまず始めに立てた.そして, ヒトの成熟した脊髄組織で, 仮説に置いたLIN28の発現は認められなかったため,より重要性が高いと思われる TDP-43のヒト運動神経細胞への毒性を新たに検討する方針とした. これまで ヒト正常運動神経細胞への各種病態因子の導入により細胞死が誘導されるか否か,についての検討はまだなされておらず,病因と示唆されてきたいくつかの候補因子が実際のヒト運動神経細胞にとってgain of toxic functionを呈するものであるかどうかは不明のままであった.今回, ヒトES細胞由来運動神経細胞への遺伝子導入に際し,至適遺伝子導入条件を検索し, マグネトフェクションを活用した至適条件下において, C末にV5タグを付加したTDP-43全長,35-kDa C末アイソフォーム, 26-kDa C末アイソフォーム,p.A315T変異体,p.A382T変異体を導入した.その結果, TDP-43 26k-Daアイソフォームおよびp.A315T, p.A382T変異体のいずれもがヒト運動神経細胞に対して直接的な細胞毒性作用を有することが証明された. また,ALS病態に関連した現象として知られているRNA編集異常を引き起こす系としてRNA編集酵素ADAR2のshRNAによるより効率的なノックダウン系を確立し,ADAR2活性の低下がTDP-43の26k-Da C末断片の生成には影響を及ぼさないことも証明した.
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