我々は今回の採択研究課題を通じて、純国産薬のエイコサペンタエン酸(EPA)が多発性硬化症の新規治療薬になる可能性があることを、多発性硬化症の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を用いて報告しました。(J Neuroimmunol. 2013.) EPAは、大規模臨床試験により、心血管イベントに対して、単剤での臨床有用性が唯一証明されているω-3系多価不飽和脂肪酸の一つです。その作用は、血管内皮細胞やマクロファージによる炎症性エイコサノイドの産生を抑えてプラークの破壊を防ぐ、抗炎症作用とされています。そこで我々は、その高い安全性と抗炎症作用とに注目し、多発性硬化症に応用出来ないかと考えました。 マウスにEAEを誘導し、EPA投与群と非投与群で比較したところ、投与群で有意にEAEが抑制されました。次にEPA投与群では、病態形成に働く免疫担当細胞による中枢神経への浸潤が減っていることを明らかにしました。また、その中心を成すCD4T細胞による炎症性サイトカインの産生が抑制されていることを明らかにしました。さらに、その理由の一つとして、中枢神経浸潤CD4T細胞に核内受容体のPPARsが誘導されている事を明らかしました。これらの結果は、PPARsがEAEに抑制的に働くことや、EPAがPPARsのリガンドであるという報告に合致します。 ω-3系多価不飽和脂肪酸の多発性硬化症に対する臨床試験の結果は様々ですが、過去の報告は全てDHAやω-6系脂肪酸をふんだんに含む薬が使用されています。今回、我々が示した超純度EPAによるEAE抑制効果が強力であったこと、DHA単剤では心筋梗塞イベント抑制報告がないこと、EPAの摂取が多いイヌイット族は多発性硬化症が少ない事などから、超純度EPAの多発性硬化症に対する新薬としての可能性を、更に追及するべきであると考えられました。
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