研究課題/領域番号 |
23791008
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研究機関 | (財)東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
東 晋二 (財)東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 研究員 (30365647)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 筋委縮性側索硬化症 / 前頭側頭葉変性症 / 神経変性 / 酸化ストレス / RNA代謝 / ストレス顆粒 / TDP-43 |
研究概要 |
筋委縮性側索硬化症や前頭側頭葉変性症の患者脳内の凝集体の主要構成タンパク質として同定されたTDP-43 (TAR DNA binding protein) は主に転写やスプライシング、翻訳などの遺伝子発現の調整に関与していると考えられている。上記神経変性疾患では酸化ストレスなどの環境要因が病態機序に関与していると考えられている。培養細胞に亜ヒ酸ナトリウムによって酸化ストレスを与えると、TDP-43はストレス顆粒と呼ばれる凝集体に局在した。ストレス顆粒はストレス条件下における翻訳抑制を司り、mRNAの安定性や細胞障害下での遺伝子発現の調整に関係していると考えられている。そこで定常環境下とストレス環境下の細胞のポリソーム解析を行い、翻訳機構との関連を調査した。定常状態の細胞内ではTDP-43は翻訳機構に関連していなかったが、ストレス環境下の細胞内でTDP-43は翻訳が停止されているリボソームと結合していた。RNaseによりこのTDP-43-リボソーム結合は部分的に切断されたことから、この結合形成にmRNAが関与していることが想定された。またTDP-43はストレス環境下では界面活性物質に不溶性となる性質を獲得するが、ストレス刺激を与える時間が細胞毒性を示さない短時間である場合は、この不溶性は一時的な可逆性のものであった。反面、神経毒性を示すような長期のストレス暴露はTDP-43の不溶化を非可逆性なものにした。この細胞内ではRNase処理で切断できるTDP-43-リボソーム結合の割合は減少しており、TDP-43の凝集体形成により翻訳機構に影響を与えていることが想定された。これらの我々の結果はTDP-43はストレス環境下で翻訳機構に直接的に働きかけるストレス応答性機能を有するたんぱく質であることを示しており、上記神経変性疾患の病態機序を理解するうえで重要な示唆に富むものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経変性疾患関連タンパク質であるTDP-43の現在までに報告されていない新規の特性であるストレス応答性のTDP-43-リボソーム結合を同定した。これはTDP-43がストレス環境下で機能するRNA-結合タンパク質であり、翻訳機構に直接的に働きかける可能性を強く示唆するものであり、筋委縮性側索硬化症や前頭側頭葉変性症の神経変性過程における病態機序を理解する上で重要な所見であると考えている。またさらにTDP-43の非可逆性の不溶化を引き起こす環境下では、TDP-43-リボソーム結合に変化が生じることを明らかにした。不溶化形成の過程の詳細とそれが与える影響を細胞レベルで明らかにしたという意味において意義深い知見であると考えている。ここまでに得られた結果はTDP-43の凝集体形成が転写後制御に与える影響を同定するという本研究のテーマに沿っており、現在までに報告されていない新しい現象をとらえられたという点からみても、達成度は高いと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な目標はTDP-43が翻訳などの転写後制御にどのように関わり、それが最終的に細胞へどのような影響を与えるのかを知ることで、筋委縮性側索硬化症や前頭側頭葉変性症の神経変性疾患の病態機序を解明していくことである。そこで今回得られた ストレス応答性のTDP-43-リボソーム結合が実際にどのような影響を細胞の翻訳機構に与え、それにより細胞がどのように変化するのかを実験により明らかにすることを目標とする。そのため上記ストレス環境下でTDP-43の遺伝子発現の抑制細胞におけるmRNAの安定性や細胞生存率がどのように変化するのかをポリソーム解析やLDH細胞毒性アッセイなどを使用して調査する。またTDP-43のドメイン削除遺伝子の発現細胞などを使用して、これらの機能変化に寄与しているTDP-43内のドメイン部位を同定することで、相互作用物質の同定につなげられる知見を得ていく予定である。これらの結果によりさらに深い疾患の病態機序への理解が得られるものと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記研究に必要な抗体や試薬など、実験に実際使用する消耗品の購入に使用する予定である。またこれらの実験によって得られた知見を発表するために、論文投稿や学会参加を予定している。論文作成に必要な備品の購入、雑誌への投稿、掲載にかかる費用や、学会発表のために参加費、旅費など、研究成果を報告していくための費用にも使用する予定である。
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