研究課題
パーキンは家族性パーキンソン病の原因遺伝子(PARK 2)であり、パーキン蛋白はユビキチン・リガーゼ活性(E3)を有していることが知られている。パーキン蛋白は抗アポトーシス作用、酸化ストレスからの防御など、ミトコンドリアと関連した機能が報告されている。ことに、近年、パーキンはミトコンドリアのオートファジー(ミトファジー)を介した品質管理の役割を有することが知られている。一方、私達はPARK 2に関する研究を行う中で、パーキン蛋白がミトコンドリアと密接な関連があることを見出した。すなわちパーキンは、増殖期の細胞ではミトコンドリアに局在し、ミトコンドリア遺伝子の転写因子であるTFAMと協調してミトコンドリアの転写・複製を促進することおよび神経細胞においてアポトーシスを抑制することを報告した。パーキンをミトコンドリアへ運搬する未知の蛋白を探索し、新規な遺伝子Klokin 1を発見した。Klokin 1はChondroitin polymerizing factor (ChPF)の変異体であり、ミトコンドリアに局在する蛋白である。Klokin 1/ChPFファミリーはパーキンと同様に抗アポトーシス作用を有していた。さらに、培養細胞系ではパーキンをノックダウンした細胞では、アポトーシスが増加するものの、Klokin 1/ChPFファミリーの過剰発現で、アポトーシスを抑制しうることが観察された。また、逆にKlokin 1/ChPFファミリーをノックダウンした細胞では、アポトーシスが増加するものの、パーキンの過剰発現ではアポトーシスを抑制することができなかった。すなわち、Klokin 1/ChPFファミリーはパーキンの機能を代償しうること、およびパーキンと同様に抗アポトーシス作用を有するが、その作用はパーキン非依存性であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
私達はKlokin 1の機能解析に関して、Klokin 1とパーキンの内因性蛋白の発現をRNAiで抑制した時、あるいは過剰発現させた培養細胞において、ミトコンドリアに関連した抗アポトーシス作用を検討した。その結果、Klokin 1あるいはパーキン発現を抑制した場合にはアポトーシスが増加すること、パーキン発現を抑制しアポトーシスをきたした細胞にKlokin 1を過剰発現させるとアポトーシスが減少することを見出した。一方、Klokin 1発現を抑制した細胞のアポトーシスはパーキンを過剰発現させてもそれを抑制することはできなかった。このことは、パーキンの抗アポトーシス作用はKlokin 1の存在を必要とするのに対して、Klokin 1はパーキンをミトコンドリアに運搬するのみならずミトコンドリア内で独自の抗アポトーシス作用を発揮すること、その作用はパーキンの作用を代償しうることを示唆する。パーキンKO動物に関し、ショウジョウバエ(Drosophila)ではDAニューロンの減少がおこり、遺伝性パーキンソン病PARK2モデルとしてのphenotypeをとることが知られている。一方、KOマウスは世界で数種類作製されているものの、ミトコンドリアの機能障害をきたしたとする報告が見られるのみで、PARK2に類似した症状は見られずDAニューロンの脱落も観察されていない。。私達は、その原因としてKlokin1/ChPFファミリーの代償作用がマウスでは顕著なためであるとの仮説を立てた。実際、供与されたパーキンKOマウスで検討したところ、脳のDAニューロンにおいて、コントロールと比べて著明にKlokin1/ChPFファミリーの発現が増加し、細胞内分布も全く異なったものであった。これらの成績はすべてKlokin1/ChPFファミリーがパーキン欠損を補完しうることを示すものである。
(a) パーキンKOマウスの解析パーキンKOマウスのembryonic fibroblast (MEF) や初代培養系を用い、パーキンKOマウスではさらにKlokin 1をノックダウンするとパーキンの欠損していないコントロールに比べ、著明にアポトーシスをきたすか否かを検証する。また、既に報告された方法を用いて、ミトファジーの変化が見られる否かを合わせて検討する。私達は既に筋、fibroblast初代培養系およびMEFを用いた実験を開始している。(b) PARK2の解析ヒトについてはパーキン・Klokin1/ChPFファミリーが豊富に発現するリンパ球で検討したところ、PARK2患者ではやはり健常に比べKlokin1/ChPFファミリーの発現は変化が見られなかった。このことはマウスで認められたパーキン遺伝子欠損に対するKlokin1/ChPFファミリーの代償機転が、ヒトでは不十分であることを示唆するものと考えられた。一方、孤発性パーキンソン病患者リンパ球ではその発現が著明に増加していた。私達は最近、PARK2患者剖検脳を広島大学より供与を受けた。本研究では、その剖検脳を用いてKlokin1/ChPFファミリーの発現を解析する。さらにPARK2患者より同意が得られた場合には、皮膚生検を行い、fibroblastの初代培養系を樹立することを計画している。この研究は既に、徳島病院倫理委員会の承認を受けており、私達は既に1名のPARK2患者より文書同意を得て、fibroblastの初代培養細胞を得ることができた。平成24年度にかけてさらに多くの患者より提供を受け、Klokin 1をノックダウンするとパーキンの欠損していないコントロールに比べ、アポトーシスが増加するか否か、ミトファジーが変化するか否かを検証する。
本研究では、パーキンおよびKlokin 1/ChPFファミリーの、パーキン遺伝子欠損症の病態との関連を明らかにすることを目的とする。そのためにパーキン遺伝子欠損症の剖検脳において、Klokin 1/ChPFファミリーの発現が変化しているか否かを、対称剖検脳と比較する。またパーキンKOマウスにおいてもその発現様式を観察する。さらに、fibroblastの初代培養系をパーキン遺伝子欠損症患者およびパーキンKOマウスより樹立し、その細胞ではKlokin 1/ChPFファミリーの内因性発現が増大しているか否かを検討する。さらにその細胞ではKlokin 1/ChPFファミリーの過剰発現によりアポーシスを抑制しうること、逆にKlokin 1/ChPFファミリーをノックダウンするとアポトーシスが増大するか否かを検討するとともに、その時ミトファジーがどのように変化しているかを解析する。次の段階として、パーキン遺伝子欠損症ならびにKOマウスの変化が観察された場合には、孤発性パーキンソン病患者やMPTPによるパーキンソン病モデルマウスにおいても、同様の検討を行い、孤発性パーキンソン病の病態とKlokin 1/ChPFファミリーの関連の有無を明らかにする。
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Hum Mol Genet.
巻: 21(5) ページ: 991-1003