研究課題
(1)栄養状態の違いにおける各種アミノ酸トランスポーターの肝における発現の検討―空腹状態や食餌摂取状態、普通食摂取や高脂肪食摂取、遺伝的肥満(db/dbマウス)の状態など、生理的な栄養状況に応じて、マウスの肝臓での各種アミノ酸トランスポーターの発現をreal time RT-PCR法で検討した。これらの検討の中で、トランスポーターの一つSNAT2については、食餌摂取状態や肥満状態において、有意に発現が減少した。(2)アミノ酸トランスポーターの組換えアデノウィルスを作製―(1)の検討で大きな変化を認めたSNAT2を選択し、そのcDNAを肝のmRNAよりRT-PCR法にてクローニングを行い、この遺伝子を組み込んだ組換えアデノウィルスを作製した。このアデノウィルスをマウスに経尾静脈的に投与することにより、当研究室の既報に基づき肝臓へ選択的に発現させた。(3)肝臓へのアミノ酸トランスポーター発現による肝での代謝に与える影響―アミノ酸トランスポーターの導入により、real time RT-PCR法の検討で、肝臓のアミノ酸合成系の酵素の遺伝子発現は増加しており、また肝臓内のアミノ酸含有量は増加していた。さらに、mTOR/S6K経路に属するシグナル分子のリン酸化の程度はコントロール群と比べ増加していた。(4)肝臓へのアミノ酸トランスポーター発現による全身や他臓器における代謝に与える影響―全身への影響としては、特に血清脂質プロファイルに変化を認めており、肝臓以外の代謝関連組織として、筋・褐色脂肪・白色脂肪を念頭に置き、これらの組織での脂質代謝に関係する遺伝子群の変化を検討している。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の研究実績と現在の進行状況に関して、当初の研究計画書に即して上記に記載した。現在進行中であるものの、現段階では、肝臓への局所的な遺伝子導入による代謝変化により、個体として全身の代謝に影響を及ぼすという有望な研究結果を得ているものと考えられる。平成24年度は、この点の詳細な機序の解明に繋げていきたいと考えている。そうすることで、新たなメタボリックシンドロームの形成のメカニズムに迫り、臨床への応用を考えていく上での一つの指標になるのではないかと推察される。
(1)肝から他組織への遠隔代謝効果の機序の解明―先に述べた平成23年度の研究結果により認められた、肝臓のみならず他組織における代謝変化の機序について解明することを目標とする。1)肝mTOR/S6Kinaseの活性化の関与について―上記のように、肝でのアミノ酸トランスポーター発現により、肝でのmTOR/S6Kinase経路の活性化が認められている。そこで、アミノ酸トランスポーター発現させた状況でこの経路を遮断したり、あるいは、アミノ酸を介さずにこの経路を活性化することにより、全身や他組織における代謝変化に及ぼす影響について検討を行う。2)他組織への情報を伝達する機序の解明―他組織や全身代謝に認められた代謝影響について、肝臓からの迷走神経・内臓神経等の切断や薬理学的求心路遮断などを行い、神経系の関与について検討を行う。(2)メタボリックシンドロームにおける代謝への関与の検討―過栄養や肥満を基盤とするメタボリックシンドロームでは、肝でのアミノ酸含量が増加していることやmTOR/S6K経路が活性化していることが報告されている。そこで、高脂肪食や遺伝性肥満のモデルマウスを用い、肝へのアミノ酸流入量の調節、および、mTOR/S6K経路の遮断を行い、全身の代謝に与える影響を解析する。これにより、肝におけるアミノ酸代謝に由来するシグナルが、メタボリックシンドロームにおける各種病態に関与するかを検討する。
(1)上記の研究を遂行するに当たり必要な実験機材―数種類のアデノウイルスを継続的に精製するのには多くの細胞培養器具やメディウムなどを必要とする。血清の糖脂質の代謝パラメーターの定量には数種類の測定アッセイキットを必要とする。また、マウスに使用する神経系遮断剤などの購入。(2)上記の研究を遂行するに当たり必要な実験動物―野生型マウス、野生型マウスに高脂肪食を負荷する場合はマウスとともに特別に作成した高脂肪餌を必要とする。また、遺伝的肥満モデルマウスである、db/dbマウスやob/obマウスなどの購入費用と、これらの動物の飼育管理維持費用を必要とする。(3)当該研究室以外の外部の検査機関への検査依頼―組織中のアミノ酸濃度の定量や、血清脂質プロファイルの詳細な検討は外部の検査機関に委託し、検討していただく予定であり、検査費用を必要とする。(4)研究成果発表や学術講演への参加―本年度の研究内容を最終的に取りまとめ、国内学会や国際学会へ参加のうえ発表することも検討している。また、関連した学会や学術集会などへの参加をすることで、有意義な情報交換の場と考えられる。
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Circulation
巻: 125 ページ: 1122-1133
European Heart Journal
巻: in press ページ: in press
巻: 124 ページ: 830-839