研究課題
心血管疾患の重大なリスク要因であるメタボリックシンドロームの病態解明を目指して、我々は光イメージング手法を用いて、肥満に伴う脂肪組織の形態変化(リモデリング)と機能異常を明らかにしてきた.。肥満脂肪組織では、M1マクロファージ、CD8陽性T細胞といった炎症精細胞が賦活化されて、脂肪組織炎症と糖尿病病態を起こすがその詳細なメカニズムはわかっていない。本研究ではまず、これらの病態解析をさらに進め、慢性炎症や免疫異常の肥満病態への関与をより詳細に検討し、いかに脂肪組織において炎症性・免疫細胞が遊走されるか、賦活化されるあ、その分子メカニズムを明らかにすることで、新たな治療の標的の可能性をさぐっている。また、いままで、「メタボ検診」として行われている腹囲の測定は、医学的根拠も乏しく、その有用性には疑問の声も多い。そこで我々は、新たなメタボリックシンドロームのバイオマーカーの探索を行っている。我々が行っている、検診業務の一環として、脂肪組織の機能検査、各種血清修飾脂質・生合成酵素の測定を行い、非侵襲的な内臓脂肪の機能評価系の樹立を目指した。日本人は、「やせていても糖尿病になる方が多い」「遺伝子解析の結果でも肥満と病態に強い相関が認められない」など、依然として肥満病態形成メカニズムに不明の点が多い人種であるといえる。そこで、我々の知見を統合することにより、低侵襲で、より現実に即した、オーダーメイド治療が可能になると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
慢性炎症という病態は、生体内における細胞間ネットワークの破綻が本態と考えられ、単一の臓器や細胞種の異常から全てを説明することはできない。その為、従来の単一培養細胞を用いた遺伝子からのアプローチでは、細胞ネットワークのメカニズムを明らかにすることは難しかった。申請者は、近年ニポウ式レーザー共焦点顕微鏡、さらに二光子レゾナンス顕微鏡を生体に応用し、「生体内で細胞を"みて""知る"」生体内分子イメージング手法を開発し、メタボリックシンドロームにおいて、肥満内臓脂肪の局所で慢性炎症を背景に異常な細胞間相互作用が生じている事を明らかにしてきた。その過程で、LPAの(リゾホスファチジン酸)の生合成酵素であるオートタキシンが、脂肪組織における脂肪細胞分化と肥大に関わることを、オートタキシンヘテロノックアウトマウス、トランスジェニック過剰発現マウスを用いて証明した(論文査読中)。また、In Vitroにおける培養細胞の実験からも、複雑脂質がインスリンシグナルを阻害することは明らかであるが、この作用機序については多様な報告がなされており、議論のまだ多いところである。
各種病態モデル動物・遺伝子改変動物に適応して、慢性炎症を背景とする病態部位の局所における炎症性・免疫細胞の動態と、その賦活化・活性化・遊走の可視化を行う。すなわち、各種炎症性・免疫細胞と実質細胞の相互作用、病態下の臓器機能異常における細胞連関の役割をより明らかにする。血管内皮細胞・炎症細胞・血小板・筋細胞・脂肪細胞等をそれぞれ特異的にラベルし生体内観察することにより、肥満組織や動脈硬化巣における複数の細胞連関を可視化する。これらを、全身の脂質生合成酵素およびGPCRをはじめとする脂質受容体に欠損・異常を来たす遺伝子改変動物と組み合わせて、これらの遺伝子改変がいかに全身の表現系(耐糖能の変化等)に影響を来たすかを、臓器・組織・細胞レベル、それぞれについて検証を行う。これらの結果をふまえて、複雑脂質や脂質メディエーターがいかに生体内において局所免疫を賦活化し、脂肪組織炎症と病態を引き起こしているかを明らかにする。さらに、受容体の結晶構造解析から得られた阻害剤を用いて、生体への介入実験を行い、新規治療法の開発につなげる。
主に消耗品試薬(蛍光標識抗体・実験動物代)に研究費を充当する。さらに、研究成果の発表のために、国内・国際学会の出席を予定しており旅費に充当する予定である。大型機材の購入は予定していない。
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Blood
巻: 119(8) ページ: e45-56
Eur J Cardiovasc Prev Rehabil
巻: Sep 13 ページ: X