本研究の目的は、申請者がこれまでに報告したインスリン抵抗性ヘパトカインであるセレノプロテインPの肝細胞での産生メカニズムならびに標的細胞での作用メカニズムを明らかにすることである。まず培養肝細胞を用いて、抗糖尿病薬メトフォルミンが肝細胞でのセレノプロテインP遺伝子発現を抑制するということ、その下流でAMPキナーゼに活性を制御される転写因子Foxo3がセレノプロテインPの抑制に関わっていることを見出した。さらに、抗高脂血症薬として臨床使用されているEPAが、肝細胞でのセレノプロテインP遺伝子発現を抑制することを見出した。またセレノプロテインPの脂肪細胞への作用に関連して、糖尿病患者の血中セレノプロテインP濃度が脂肪細胞由来因子であるアディポネクチンと負に相関すること、セレノプロテインP欠損マウスの血中でアディポネクチン濃度が上昇していることを報告した(PLoS ONE 2012)。最後に、siRNAによる遺伝子ノックダウン法を用いて、セレノプロテインPの受容体探索をおこなった。標的細胞の一つであるC2C12筋管細胞において、いくつかの候補タンパクのノックダウンをおこなった結果、膜タンパク候補1のノックダウン細胞において、セレノプロテインPタンパク投与によるセレン輸送が有意に減少することを見出した。さらに興味深いことに、このノックダウン細胞においては、セレノプロテインPタンパク投与によるAMPキナーゼ活性抑制効果、PGC1a発現抑制効果のいずれもが有意に減少した。そして、この膜タンパク候補1をノックダウンした細胞とセレノプロテインPの結合は有意に低下した。膜タンパク候補1がセレノプロテインPの受容体であることが強く示唆された。今後、肝でのAMPキナーゼ/Foxo3経路および筋でのセレノプロテインP/膜タンパク候補1経路が新たな2型糖尿病の重要な治療標的になることが期待される。
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