研究課題/領域番号 |
23791033
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
三代 剛 島根大学, 医学部, その他 (20599427)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 酪酸 / MFGE8 / アポトーシス / 16S rRNAシークエンス |
研究概要 |
C57BL6/N(WT)マウスに2.5%DSSを服用させると経時的な体重減少が認められる。この時、腸内短鎖脂肪酸濃度の変化を測定した所、酢酸、フマル酸やプロピオン酸の濃度変化は無かったが、酪酸濃度のみがDSS服用時に半減した。腸内細菌産生産物の一種である短鎖脂肪酸(酪酸)を、至摘濃度にて培養細胞(NCI-H716)上清内に添加した。特に酪酸はヒストン脱アセチル化複合体阻害作用を有しており、種々の遺伝子発現活性化に関与している。酪酸添加における培養細胞からmRNAを単離し、cDNAに変換した後にDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現変化を解析した。検討項目としていたGLP-1遺伝子は、発現量が約25%程度に減少していた。一方で、細胞接着因子であるMFGE8は5倍程度の顕著な発現上昇を認めており、この遺伝子について機能解析を進めて行く事とした。クロマチン免疫沈降法を用いて、MFGE8プロモーター領域のヒストンH3K9アセチル化を評価した所、酪酸添加時、経時的に同領域のアセチル化が増加している結果が得られた。次にWTマウス及びMFGE8ノックアウト(KO)マウスに対して、各々DSSの投与を行いつつ、加えて酪酸の経直腸内投与を行った。まずWTマウス及びKOマウス各々の腸内細菌叢を16S rRNAメタゲノム解析にて調べたが、菌叢の大きな差異はみられなかった。コントロールマウス(生理的食塩水投与)に比べて、酪酸の投与を受けたWTマウスは、有意な体重減少の抑制がみられたものの、酪酸投与KOマウスでは有意差は認められなかった。ELISA法を用いて、腸組織における炎症パラメーターの測定も行ったが、やはり酪酸投与を受けたWTマウスでは、炎症性サイトカインの発現抑制がみられたが、KOマウスでは有意な差はみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、正常腸上皮を用いた報告より、酪酸投与により培養細胞のGLP-1発現は上昇すると考えられていたが、予想に反して発現量は著明に低下していた。この事は、使用した培養細胞が「癌由来」である事が起因している可能性も考えられた。マイクロアレイの結果より、細胞接着因子の一つであるMFGE8の発現が約5倍と著明に上昇していた事より、この遺伝子の機能解析に移行した。当初MFGE8はアポトーシスに関与する因子と考えられていたが、その他にも細胞ホメオスターシス維持機能や、抗炎症作用を有するといった報告がここ最近散見されている。当教室には、MFGE8に関する各種抗体や、京都大学長田博士より御供与頂いたMFGE8KOマウスをストックしていた事より、これらの抗体やマウスを用いて解析を進め得た。この為、当初の予定計画以上に進展しており、平成23年度終了時点までの結果をまとめて、現在論文投稿段階まで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度までの所で、培養細胞及び実験マウスを用いたin vitro系での解析は終了している。臨床の場において、実際に炎症性腸疾患の患者に対して酪酸注腸療法も行われつつあるが、その効果に関しては酪酸不応性のケースも散見される事より議論が分かれている。平成23年度の解析結果より、酪酸添加によるMFGE8を介した抗炎症作用が強く示唆された。MFGE8プロモーター上流域にはCpGアイランドが存在しており、同領域のDNAメチル化によるMFGE8発現低下の可能性も考えられる。この場合、腸炎に対する酪酸を介したMFGE8の抗炎症作用が効率的に誘導されない可能性も十分に考慮される。今後(平成24年度)は、実際の炎症性腸疾患患者の大腸生検サンプルより、プロモーター部を含めたMFGE8遺伝子領域のDNA及びヒストンの修飾状況を検討し、個々の臨床所見との相関や、酪酸投与への反応性(治療効果)が予測可能かどうかを検討する事を推進方策とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の推進方策に基づき、当施設倫理委員会の承認を取得後に実際の炎症性腸疾患患者の炎症部及び非炎症部を含めた大腸生検サンプルを内視鏡下に回収する。この大腸生検サンプルを用いて、定量的PCR法にてMFGE8遺伝子の発現量を、またクロマチン免疫沈降法を用いてMFGE8プロモーター領域のDNA及びヒストン修飾解析を進める。併せて、臨床パラメーター情報と照らし合わせた多因子解析を行う予定であり、当該の研究費をこれらの解析に充てる。
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