研究課題
申請者が着目しているプロリン異性化酵素Pin1はプロリンの異性化を行うことにより、結合蛋白の立体構造を変化させ、その機能調節を担っているユニークな酵素である。Pin1と代謝性疾患との関連については長らく不明であったが、申請者はPin1がIRS-1やCREBのco-activaterであるCRTC2に結合することで糖代謝調節を担っていることを明らかにしてきた。さらに最近、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルマウス(メチオニン・コリン欠乏食負荷マウス:MCDD)の肝臓でPin1の発現が増加していることを見出し、Pin1のNASH発症への関与を検討したところ、以下の知見を得た。(1)Pin1 KOマウスはMCDDによる肝線維化・肝星細胞活性化・肝脂肪蓄積の誘導がいずれもControlマウスに比べて顕著に抑制された。(2)MCDDはPPARalpha及びその下流遺伝子の発現を抑制するが、Pin1 KOマウスではこれらの遺伝子発現がコントロールマウスに比べて高いことからPPARalphaの活性調節がPin1 KOマウスでの肝脂肪蓄積減少に関与していることが示唆された。(3)ヒト肝癌細胞モデルであるHepG2細胞にPin1を過剰発現させるとPPARalphaの転写活性が有意に抑制された。(4)Pin1を欠失したマクロファージにおいては、LPSによるTNFalphaやMCP-1といった炎症性サイトカインの誘導が抑制された。以上のように本年度の大きな研究成果の一つとして、Pin1のNASH発症への関与をあきらかにした。引き続き、詳細なメカニズム及び創薬への応用を検討していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
2011年度研究計画として(1)Pin1の代謝性疾患への関与の検討(2)新規Pin1結合蛋白の同定(3)臓器特異的Pin1 KOマウスの作成・解析を目的として遂行してきた。(1)の結果として非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症にPin1が極めて重要であることを明らかにした。また、そのメカニズムとしてPPARaphaの転写活性調節やサイトカインの放出抑制が関与していることも明らかにした。これらの結果はPin1がNASH治療薬の新たなターゲットとなりうることを示すものであり、社会的意義も大きいと考えられる(2)の結果として,myc-TEV-Flag-Pin1アデノウイルスベクターを用いた複合体解析により新たに機能未知であるTrk-fused gene (TFG)をPin1結合蛋白として同定した。ヒト肝癌細胞HepG2におけるTFG過剰発現、ノックダウンの系によりTFGはインスリンシグナル調節に関与しているという知見が得られつつあり、引き続き検討を行っていく。(3)においても臓器特異的Pin1 KOマウスが生まれつつある。 以上のことより、2011年度研究計画は概ね順調に進行していると考えている。
2012年度は臓器特異的Pin1 KOマウスの解析を行う予定である。まず、肝臓特異的KOマウスの解析を予定しているが、筋・脂肪・膵臓と順次解析を行っていく。マウス個体における解析は十分経験があり、滞りなく進行すると考えている。 Pin1結合蛋白として新たに同定したTrk-fused gene (TFG)に関してはインスリンシグナルに関与しているという知見が得られつつあるので、さらに詳細な解析を進めるとともにTFGに関しても臓器特異的KOマウスの作成を行う。また、NASH発症に関係する新たなPin1結合蛋白を明らかにするためにNASHモデルマウスにおいてmyc-TEV-Flag-Pin1アデノウイルスを用いた複合体解析を行う予定である。新たな結合タンパクが同定され次第、細胞やマウスを用いた機能解析を行う予定である。さらに今回、Pin1結合蛋白として新たに同定されたPPARalpha, TFGや既報のIRS-1やCRTC2とPin1の結合を調節する薬剤をスクリーニングできるシステムをFRETを利用して構築する。得られた候補薬剤に関して、細胞やマウスを用いて、エネルギー代謝や糖代謝に関するパラメーターを測定することでリード化合物としての可能性を探求する。
まず動物の飼育費・購入費が必要であり、血糖測定キットなども必要である。また、抗体やReal time PCR関連、細胞培養関連の費用が必要である。高額の機器類は所属教室に備わっているので、大部分を消耗品費として使用する予定である。
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