本申請研究に使用したトランスジェニックマウスにてYFP蛍光陽性細胞がGLP-1分泌能を有しているか否かを確認するため、YFP陽性細胞のみに単一細胞RT-PCR法を適用し、GLP-1の前駆物質であるプレプログルカゴンの発現を確認し、YFP蛍光陽性細胞がGLP-1分泌能を有し、GLP-1分泌細胞の観察および実験に有用な実験動物であることを分子生物学的に明らかにした。 電気生理学的手法を用いて、YFP蛍光陽性(=GLP-1分泌)神経細胞とYFP蛍光陰性神経細胞における電気生理学的特性の差異から、あるいはまた免疫組織化学染色法を用いて、形態学的あるいは組織学的局在にて、両細胞の識別が可能か否かについて検討を行ったが、両細胞間において有意な差は認められず、YFP蛍光の有無のみが、”生細胞”の状態でのGLP-1分泌神経細胞の指標になる事が明らかになった。 GLP-1分泌神経細胞における修飾因子の同定を目的とし、スライスパッチクランプ法を用いて得られた結果にて、GLP-1分泌神経細胞は、興奮性のシナプス入力を有しており、シナプス入力はアドレナリン、ノルアドレナリンおよびコレシストキニンにて有意に増加することから、これらの食欲調節因子が中枢神経におけるGLP-1分泌に関与していることを明らかにした。 GLP-1そのものにてGLP-1分泌神経細胞の神経応答は観察されず、末梢にて分泌されたGLP-1が直接的に中枢神経におけるGLP-1分泌に関与している証拠は得られなかった。しかしながら、求心性の神経線維を介したシナプス入力が観察されていることから、求心性の神経線維を介した末梢臓器からの情報にて、中枢神経内におけるGLP-1分泌機序に係わっている可能性が示唆された。 これらの結果は、糖尿病治療薬として用いられているGLP-1関連試薬の作用機序解明への有益な情報になりうると考えられる。
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