研究概要 |
cAMP-CREBシグナルは脂肪細胞分化や脂肪分解において重要な役割を果たすことが知られている。申請者らはCREB coactivator CRTC3が脂肪組織に強く発現していることを示し、CRTC3が脂肪細胞においてCREBの機能を調節することを世界で初めて確認し(Song Y, Igata M et al, Nature in press)、CRTC3ノックアウトマウスは高脂肪食下で野生型マウスに比べ体重増加、脂肪量増加が有意に少ないという表現型を示した。ノックアウトマウスの白色脂肪組織を観察したところ細胞数に変わりはなかったが、高脂肪食による細胞の肥大化は抑制されていた。申請者はCRTC3ノックアウトマウスの白色脂肪組織では脂肪細胞の分化が抑制されている可能性を推測し、CRTC3が脂肪細胞分化や肥大化を調節していること、またそのメカニズムを明らかにすることができれば、今後の肥満の予防・治療法の開発に大いに寄与できるものと考えて研究を行っている。まず、マウス由来培養前駆脂肪細胞株3T3L1 細胞を用い、脂肪細胞分化過程におけるCRTC3の発現の変化をウェスタンブロット法およびreal-time PCR法を用いて検討した。その結果脂肪細胞分化過程においてCRTC3の発現に変化を認めなかった。次にレンチウイルスを用いてCRTC3をノックダウンし、脂肪細胞分化に対する影響を検討している。またCRTC3のホモログであるCRTC2においても同様の検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウス由来培養前駆脂肪細胞株3T3L1 細胞をデキサメサゾン、インスリン、IBMX刺激を行い脂肪細胞への分化を誘導、分化開始日をDay 0としDay 0~Day 8までの細胞を回収した。蛋白およびmRNAを抽出し、ウェスタンブロット法、real-time PCR法にてCRTC3の発現を検討した。その結果、脂肪細胞分化過程においてCRTC3の発現に変化を認めなかった。免疫染色法やfractionationによるCRTC3の細胞内局在においては現在検討中である。 次にCRTC3をノックダウンしCRTC3 shRNAを組み込んだレンチウイルスベクター及びウイルス構造遺伝子をもつヘルパープラスミド(gag-pol, REV, VSVG)をHEK293細胞に同時にトランスフェクション、培養上清を回収しウイルス液とした。作成したウイルス液を3T3L1細胞の培養上清に加え、ノックダウン効果の確認をウェスタンブロット法またはreal-time PCR法で行った。当初CRTC3の発現低下がなかなか認められず、細胞の新規購入やウイルス作成条件の修正を数度繰り返したため、昨年度申請した実験予定よりも遅れが出てしまった。現在3T3L1細胞におけるCRTC3ノックダウン、過剰発現に成功し、これから脂肪細胞分化に対する影響を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
3T3L1細胞にレンチウイルスを用いてCRTC3発現の抑制、過剰発現を行う。これらの細胞を用い脂肪細胞分化に対する影響を解析する。具体的には、C/EBPβ/δ, C/EBPα, PPARγ等の転写因子およびGLUT4, FAS, adiponectin等の脂肪細胞マーカーの継時的発現変化をウェスタンブロット法またはreal-time PCR法にて検討する。またOil Red O染色により細胞内の脂肪蓄積を評価する。さらに脂肪細胞肥大化におけるCRTC3ノックダウン、過剰発現の影響の解析を行う。脂肪細胞サイズ、脂肪滴サイズ、中性脂肪含有量を測定、脂肪合成マーカー(ACC, FAS, SREBP等)の発現をreal-time PCR法で検討する。脂肪分解についてはグルカゴンやカテコラミン刺激によるホルモン感受性リパーゼのリン酸化やcAMP、グリセロール濃度測定にて評価する予定。白色脂肪細胞におけるCRTC3の役割を解明した後には、褐色脂肪細胞におけるCRTC3の役割も同様の方法を用い検討していきたい。
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