研究課題/領域番号 |
23791038
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
瀬ノ口 隆文 熊本大学, 生命科学研究部, 特任助教 (00530320)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / 動脈硬化 / 単球 / マクロファージ / 炎症性サイトカイン |
研究概要 |
脂肪組織や膵島へのマクロファージ浸潤による組織の炎症がインスリン抵抗性やインスリン分泌低下を引き起こすことが報告されており、単球・マクロファージ機能の糖尿病発症・進展機序への関与が注目されている。本研究ではマクロファージ分化前の末梢血単球の機能に注目し、特に単球におけるインスリン作用とNF-kB活性の関連および糖尿病発症機序への関与を検討する。また末梢血単球のNF-kB活性測定が糖尿病発症の危険度を評価するパラメーターとしての可能性を探ることを目的とする。単球NF-kB活性への高血糖・高インスリン血症の影響を検討するために、まず野生型マウス末梢血単核球(PBMC)の採取を行った。より簡便にまた安定的にPBMCを得るために、採血管にPBMC分離のためのFicolを含む製品(バキュティナCPT)を使用した。採血量、遠心の条件設定を行い、解析に十分量のPBMCを安定的に得ることができ、単球・マクロファージ特異的遺伝子発現、炎症性サイトカインの遺伝子発現を確認した。従来の濃度勾配を利用した遠心法で得られたPBMCとの比較においては、定量的PCR法を用いた単球・マクロファージ特異的遺伝子の発現に違いを認めなかった。さらに、高インスリン血症をきたす肥満・糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスからのPBMC採取を行ったが、十分な数のPBMCを採取することができず、採血量、遠心の条件の検討を行っている。培養細胞を用いた基礎実験においては、ヒト単球系の細胞株であるTHP-1細胞、マウスマクロファージ系細胞株であるRAW細胞を用い、培養液中のグルコース濃度、インスリン濃度の変化による炎症性サイトカイン発現をmRNAレベルで検討し、これまでの報告にたがわない発現の変化の結果を確認した。さらに、刺激の濃度、時間の違いによる遺伝子発現の変化を検討している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
単球NF-kB活性への高血糖・高インスリン血症の影響を検討するために、マウス末梢血単核球(PBMC)の採取を、採血管にPBMC分離のためのFicolを含む製品(バキュティナCPT)を使用し、野生型マウスからのPBMC採取では解析に十分量のPBMCを安定的に得ることができ、単球・マクロファージ特異的遺伝子発現、炎症性サイトカインの遺伝子発現を確認した。従来の濃度勾配を利用した遠心法で得られたPBMCとの比較においては、定量的PCR法を用いた単球・マクロファージ特異的遺伝子の発現に違いを認めなかった。しかしながら、肥満・糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスからのPBMC採取では、十分な数のPBMCを採取することができず、採血量、遠心の条件の検討を行っている。db/dbマウスは個体数に限りがあり、十分な検討を行えなかった。培養細胞を用いた基礎実験においては、ヒト単球系の細胞株であるTHP-1細胞、マウスマクロファージ系細胞株であるRAW細胞を用い、培養液中のグルコース濃度、インスリン濃度の変化による炎症性サイトカイン発現をmRNAレベルで検討した。まずは複数の細胞株を用い現象の確かさを慎重に確認することに時間を要した。またマウスから採取した腹腔マクロファージでも平行に同様の実験を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定従い研究を遂行する。培養細胞における基礎実験を継続しながら今後は、モデルマウスを用いた解析に重きを置く。前年度より継続しdb/dbマウスにおける単球NF-kB活性の評価を行う。またより生理的な病態を反映するモデルとして高脂肪食負荷マウスを用い、病態と単球NF-kBとの関係を明らかにする。さらに高血糖、高インスリン血症改善による単球NF-kB活性への効果を検討する。1.高脂肪食負荷マウスを用いたインスリン抵抗性と単球NF-kB活性化の検討高脂肪食負荷により食餌性の肥満、高インスリン血症、高血糖を誘導する肥満、インスリン抵抗性モデルである。db/dbと比較し体重増加やインスリン値の上昇は緩やかで、徐々に進行する病態を反映すると考えられる。高脂肪食負荷前、負荷10週後、負荷20週後においてこれらのマウスの血糖値、インスリン値の測定と単球NF-kB活性測定を行う。また、db/dbマウスと同様に脂肪組織、膵島へのマクロファージ浸潤の評価も行い、単球NF-kB活性との関連を検討する。2.薬剤投与による単球NF-kB活性の検討db/dbマウスおよび高脂肪食負荷マウスに対しインスリン抵抗性改善薬の投与を行い高インスリン血症、高血糖を改善による単球NF-kB活性の変化を検討する。また脂肪組織や膵島へのM浸潤や組織の炎症の程度を評価し、単球NF-kB活性との関連を明らかにすることによって単球NF-kB活性測定による治療効果判定の可能性を探る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
末梢血単球の活性を選択的に評価するために、単球の表面抗原に対する抗体、および磁気ビーズカラムを用い選択的に単球を採取する方法をとる。これらのシステムの立ち上げに一定の予算を要する。また、病態モデルマウスの購入、管理に対する費用を考慮する。さらに単球・マクロファージにおける炎症シグナルの活性化、炎症性サイトカインの発現、代謝シグナルの活性化についてフローサイトメトリーを用いた解析に挑戦する。特にマウスの末梢血単球の機能評価のために必要な1次抗体、2次抗体の選択、バッファーの条件設定を行うにあたり、一定額の予算を考慮する必要がある。単球・マクロファージの活性化がフローサイトメトリーによって解析されることで、迅速、簡便に活性を評価することが可能となり、単球・マクロファージ活性の測定が臨床的なパラメータとして利用される可能性につながるものと考えている。また、フローサイトメトリーで得られた結果の妥当性を判断するために、遺伝子発現、シグナル活性化について既存の方法を用いた検討も必要であり、定量的PCR関連物品、ELISA関連物品、ウエスタンブロット関連の物品および抗体に対する予算を考慮する。
|