研究概要 |
新しい糖尿病治療薬に関しては、われわれは以前より「膵β細胞量を増やす治療」という観点に着目しており、近年われわれも含め多数の報告があるインクレチン関連薬に加え(Sato K, Nakamura A, et al. Endocrinology, 2012)、グルコキナーゼの活性化を介した治療戦略が有用であることを唱えてきた(Terauchi Y, et al. J Clin Invest, 2007)。近年グルコキナーゼ活性化薬による糖尿病治療の可能性に注目が集まる中、私はグルコキナーゼ活性化薬が長期にわたる糖代謝改善作用に加え、膵β細胞増殖作用も有し、その増殖作用にはIRS-2が重要であることを明らかとした(Nakamura A, et al. Endocrinology, 2009; Nakamura A, et al. J Diabetes Invest, 2011; Nakamura A, et al. Diabetologia, 2012)。最近の臨床試験で、罹病期間が長くインスリン使用中で血糖コントロール不良な2型糖尿病患者においては、グルコキナーゼ活性化薬の長期投与の有効性が認められなかった。この臨床データにおける病態をわれわれは2型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスを用いて再現し、インクレチン製剤との併用で膵β細胞量・機能に関する遺伝子発現を回復させることを見出した(Nakamura A, et al. Diabetologia, 2012)。さらに糖尿病治療薬と発癌との関連が注目される中、われわれが樹立した高脂肪食負荷肝腫瘍形成モデルマウスを用いて、グルコキナーゼ活性化薬の肝腫瘍形成に与える影響を検討したところ、肝腫瘍を形成する割合はグルコキナーゼ活性化薬の投与群と非投与群で差を認めず、少なくとも肝腫瘍形成を増大させる可能性は低いと考えられた。
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