研究課題
本研究は、骨格筋代謝、骨格筋量調節における内分泌ホルモンシグナルと栄養センシングのクロストークならびに副腎皮質グルココルチコイドレセプター(GR)とその下流転写因子ネットワークによる遺伝子発現制御の意義に関する理解を進展させ、グルココルチコイドが治療薬として用いられる際の副作用である筋萎縮を克服する方法の開発に貢献できる分子基盤を構築することを目的としている。本年度は、骨格筋特異的GRノックアウト (GRmKO) マウスにおいて、mTORC1活性を正負に調整した状況下でDEXを経腹腔投与し、経時的に骨格筋(前脛骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋)細胞から核タンパク質およびRNAを抽出してGRと相互作用している因子および、GRの翻訳後修飾(リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化等)の異同を質量分析法によって網羅的に解析した。その結果、骨格筋GRは転写因子Kruppel-like factor 15 (KLF15)、Forkhead box O (FoxO)1, 3、の発現を誘導するとともに、これら下流転写因子と協調してGR転写カスケードを形成し、多彩な標的遺伝子の転写を一括して制御することを示した。これら標的遺伝子群の機能は、(1)ユビキチンプロテアソーム系(E3ユビキチンリガーゼatrogin-1, MuRF1)、(2)オートファジー系 (LC3, Bnip3)、(3)アミノ酸分解系酵素 (BCAT2)、(4) mammalian target of rapamycin complex 1 (mTORC1)阻害によるタンパク質翻訳抑制系 (REDD1, BCAT2)であった。すなわち、かかる骨格筋GR転写カスケードは、筋細胞内の代謝をタンパク質合成によるエネルギー貯蔵(同化)優位から、タンパク質分解によるエネルギー供給(異化)優位にスイッチするといえる。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した研究実施計画の年次計画をおおむね達成している。すなわち、GR下流の転写制御には、FoxOとKLF15が共にatrogin-1, MuRF1を活性化するような重複した機構があり、かつFoxOはオートファジーの活性化、KLF15はmTORC1の抑制をももたらすように標的分子が多岐にわたることが分かった。したがって、これら一連のネットワークの鍵分子となるGRを抑制する戦略は、GC筋萎縮の予防・治療に合目的的と考える。ここで得られた結果を基にして、次年度に計画している研究を行うことにより、交付申請書に記載した「研究の目的」を達成できる見込みが高いと考える。
1. mTORC1がGR下流転写制御機構に及ぼす影響の生理的・病態生理的意義の解明mTORC1活性によりDEX依存的発現活性化が減弱する転写因子KLF15, FoxO1,3を単独あるいは組み合わせで、GRmKOマウス骨格筋に導入する。標的遺伝子発現、ユビキチン―プロテアソーム系活性、オートファジー活性、BCAA代謝活性、mTORC1活性、筋繊維径、筋量、筋力変化を解析し、これらGR下流転写因子の骨格筋量調節における役割を明確にする。また、野生型マウスにP1.(2)と同様のmTORC1活性調節を行いDEX投与後、骨格筋におけるゲノムDNAへのGRリクルートメント(ChIP-on-chip)とGR依存的mRNA発現(DNA microarray)に与えるmTORC1活性の影響を網羅的に解析し、mTORC1-GR系の標的を同定する。2. 薬理学的mTORC1活性化療法開発の分子基盤構築GC筋萎縮モデル動物(ラット・マウスに5日間DEX経腹腔投与)を用いて、BCAAカクテルによるmTORC1活性誘導の最適化を、アミノ酸組成(誘導体を含む)・投与経路・投与タイミング・用量・回数・頻度・期間の検討により達成する。またBCAAレセプター(BR)同定を、表面にBCAAを固定化した親水性高分子被覆フェライト核粒子を利用したアフィニティ精製により行う。さらに、上記から得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
上記研究を推進するために必要な支出を計画している。すなわち、マウス作出、系統維持、組織抽出のため1名の実験補助員の雇用費用(所属研究所規定に基づく時給制)、国内外の学会における成果発表、また研究協力者との打合せと供与材料運搬のため、国内旅費(計1-2週間)・国外旅費(計1-2週間)、また成果発表のための論文投稿料を、次年度に交付をうける予定の助成金を以てまかなう。消耗品費は現在までに従事した関連研究における使用実績に基づき概算を算出した。
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Cancer prevention research
巻: 4 ページ: 2051-2061
doi:10.1158/1940-6207.CAPR-11-0290