これまでの研究で、我々は、世界で初めてグレリン分泌細胞株MGN3-1細胞を樹立することに成功した。昨年度までに、ペプチドホルモンのうち、オキシトシンがグレリン分泌を刺激し、一方で、ソマトスタチンがSSTR2受容体を介して、インスリンがインスリン受容体を介して、グレリン分泌を抑制することを見いだした。また神経伝達物質のうち、アドレナリンがβ1受容体を介して、また、ドーパミンがD1受容体を介してグレリン分泌を刺激することを報告してきた。グレリン細胞は主に胃や十二指腸といった消化管に存在することから、グレリンは、ペプチドホルモンや神経伝達物質による調節以外にも、栄養素によって調節を受ける可能性が考えられる。よって、今年度は特に、栄養素のグレリン分泌に与える影響について検討を行った。グレリン血中濃度は、摂食によって低下することから、グルコースの影響をまず検討した。培地中のグルコース濃度を変化させてもグレリン分泌には大きな影響は認められず、グルコースの役割は大きくないと考えられ、むしろインスリン等を介した間接的なグレリン分泌抑制が考えられた。脂肪酸に関しては、中鎖脂肪酸、特にオクタン酸、活性型グレリンの分泌を有意に増加させた。一方で長鎖脂肪酸であるオレイン酸はグレリン分泌をむしろ低下させた。アミノ酸については、一部のアミノ酸がグレリン分泌を有意に上昇させることを見いだし、現在さらに詳細な分子機構について検討中である。以上の結果から、栄養素がグレリンの産生、分泌調節に重要な役割を果たしていることが明らかとなり、さらに検討を進めることがグレリンの病態生理学的意義のさらなる理解につながることが期待される。
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