研究概要 |
Hes1プロモーターの下流にルシフェラーゼをコードする遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス(Hes1-Ub-Lucマウス)が京都大学ウイルス研究所の影山龍一郎先生の研究室で樹立されている。このマウスではHes-1の転写がオンの時にルシフェリン/ルシフェラーゼ反応による発光を単一細胞レベルで顕微鏡下にとらえることができる。(PNAS 103:1313-1318, 2006)。これを血液細胞に応用し,血液細胞におけるHes1発現のパターンを検証した。 Hes1 mRNAの定量PCRなどの結果から、血液細胞におけるHes1発現はKSL細胞(cKit陽性・Sca1陽性・分化マーカー陰性細胞)分画において強く発現していることが明らかになった。これを受け、Hes1-Ub-Lucマウスの胎生14日の胎仔肝からKSL細胞を分取した。そのままでは発光はほとんど捉えられなかったが、Hes-1の上流シグナルであるNotchシグナルを、そのリガンドであるDelta1を発現したOP9細胞で刺激することで、神経前駆細胞でみられるようなHes1発現レベルの短時間での上下(発現振動)を観察することに成功した。 Hes1と造血器腫瘍の発症機序を解明するべく、Hes1ノックアウト(KO)マウスを用いた実験を行った。白血病の主要な原因遺伝子のひとつであるMLL-AF9を骨髄前駆細胞に導入すると細胞が腫瘍化し、マウスを用いた移植モデルで白血病を引き起こすことができるが、Hes1-KOマウス由来の細胞にこの遺伝子を導入した場合、増殖力が強くなり、野生型よりも早期に白血病によってマウスが死亡した。これらの結果から、MLL-AF9による白血病において、Hes1は腫瘍抑制的にはたらくことが示された。これらの成果は、米国血液学会等で発表した。
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