本研究課題では細胞内ATP濃度調節による恒常性維持システムの解明を目指し、Lkb1-AMPK-mTORシグナルによる造血幹細胞の維持・増殖・分化の制御機構について理解することを目的としている。 平成23年度は、Lkb1は造血幹細胞の維持に必須であること、正常造血幹細胞におけるAMPKはin vitroでのグルコース濃度の環境変化に応じてその活性化状態が変化すること、正常造血幹細胞は異なるグルコース濃度の環境下においても幹細胞機能を維持していることを明らかにした。 最終年度は、in vivo正常造血幹細胞におけるAMPK活性化の解析、ATPプローブを用いた正常造血幹細胞内ATP濃度の解析、AMPK12ダブルfloxマウスの解析を行った。まず絶食処理を行った正常マウス骨髄より造血幹細胞および前駆細胞を分取してリン酸化AMPK抗体を用いた免疫染色法によりAMPK活性化の解析を行った。その結果、両細胞共にAMPKの活性化が亢進しており、また前駆細胞の細胞周期がG0期へとシフトしていることを明らかにした。次に正常造血幹細胞にATPプローブを導入し、in vitroでの様々なグルコース濃度下における造血幹細胞内ATP濃度の解析を行った。その結果、各グルコース濃度環境に応じて造血幹細胞内のATP濃度は変化していることを明らかにした。しかしin vivoにおいてはATPプローブの検出感度以下となり、十分に観察することができなかった。AMPK12ダブルfloxマウスの解析に関してはAMPK12遺伝子の欠損を誘導した結果、貧血および脾腫の観察、造血幹細胞の機能解析ではin vivo、in vitro共に緩やかな機能低下があることが明らかとなった。
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