研究課題
造血幹細胞はその内在性プログラムのみならず、周囲の特殊な環境下(ニッチ)で維持されていると考えられている。したがって、造血幹細胞の維持機構を解明するためには、造血組織での造血幹細胞の局在を同定することが最も重要である。この考えに基づき、造血幹細胞を高純度で純化でき、かつ局在を同定しうる確実なマーカーを見出すことを目標としている。成体マウス骨髄血液細胞の中で造血幹細胞に特異的に高発現している遺伝子群をDNAマイクロアレイを用いて同定し、その中で細胞表面分子、plexin domain containing 2(Plxdc2)に着目した。まず、Plxdc2の造血細胞における発現をPlxdc2:GFPノックインマウスの骨髄を用いて検討した。驚くべきことに、フローサイトメトリーでは全骨髄中のわずか0.2%未満がPlxdc2陽性であり、その陽性画分は表面マーカー上、造血幹細胞集団と分化マーカー陰性IL-7Rα陽性集団に分けることができた。次に競合的骨髄再構築アッセイを行った。全骨髄をPlxdc2陽性、陰性に分けてセルソーターでソートし、それぞれを競合細胞とともに致死量放射線照射したレシピエントマウスに移植した。経時的に末梢血中のキメリズムを解析したところ、Plxdc2陽性細胞を移植した群でのみ生着を認めた。したがって、造血幹細胞は全てPlxdc2陽性であることが示された。次にフローサイトメトリーだけでなく免疫染色でも利用可能なシンプルな造血幹細胞の純化・同定法開発のために、Plxdc2に加える新たな陽性マーカーを探索した。その結果、CD150が最終的に候補として挙げられた。Plxdc2陽性CD150陽性細胞は全骨髄中のわずか0.01%しかなく、わずか2つの陽性マーカーのみで高純度の造血幹細胞集団を認識できることが強く示唆された。
3: やや遅れている
当初予定していた、(1)Plxdc2発現の確認と、Plxdc2を用いたHSCの純化、(2)発達段階のHSCにおけるPlxdc2発現解析、(3)抗Plxdc2モノクローナル抗体の作製、(4)Plxdc2の生理的役割を明らかにする、の4項目中(1)、(2)、(4)については概ね結果を得ている。(3)のモノクローナル抗体作製については、計画書に記載した通りにハイブリドーマを作製し、ELISAでスクリーニングを行い、陽性wellをPlxdc2過剰発現細胞株を用いてフローサイトメトリーでさらにスクリーニングを行い、限界希釈によっていくつかの陽性クローンを得た。しかし、それらのクローンを使って実際に生体マウスの骨髄を染色した場合に、これまでのところほとんど陽性細胞が得られていない。抗原の免疫法は極めて基本的な方法を採っており、その過程に問題はないと考えているが、今後は抗原の種類を変えるなどの工夫を検討している。また、最近、Plxdc2は生体内では細胞外ドメインは切断されている、とする報告がいくつかなされており、細胞表面に対する抗体では認識できない可能性も出てきた。その場合、必然的に細胞外ドメインに対する抗体作製は不可能となるので、研究の遅れとはならない。
平成23年度はある程度、当初の計画通りに実験を進めることができた。今年度は昨年度の成果について再確認するとともに、その結果に基づき、さらに研究を進める。
当初から予定している実験計画を遂行するために必要な試薬やマウスの購入費・維持費に充てる予定である。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (6件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 109 ページ: 4515-4520
10.1073/pnas.1115828109
Advances in Hematopoietic Stem Cell Research
巻: 1 ページ: 39-60
ISBN: 978-953-307-930-1
Int J Hematol
巻: 94 ページ: 216-217
10.1007/s12185-011-0903-y
Int J Clin Med
巻: 2 ページ: 246-253
10.4236/ijcm.2011.23039
最新医学
巻: 66 ページ: 381-386