特発性造血障害は、免疫機序の関与が指摘される骨髄不全症候群の致死的病態の一つであり、日本人に比較的多いことからその対策は急務である。近年、免疫抑制療法や造血幹細胞移植の開発により長期生存は可能となったが、依然として多くの問題を抱える。問題解決のキーポイントは、特発性造血障害における免疫分子病態の解明と考えた。我々は、以前にストレス誘導蛋白NKG2Dリガンドが特発性造血障害の発生に関与することを見出していた(Blood 2006;Br J Haematol 2009)。そこで本研究では、NKG2Dリガンドが特発性造血障害の免疫病態を直接反映する指標、特に免疫抑制治療中止の指標になることを確認し、その臨床的意義の確立を狙った。 本研究では、特発性造血障害の代表疾患である発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)患者の血球におけるNKG2DリガンドとNKG2D受容体の膜発現解析を行った。造血障害を伴う患者では、幹細胞を反映する顆粒球上にNKG2Dリガンド発現が、リンパ球上にその受容体が検出され(診断の指標)、免疫抑制療法の効果も認められた(治療の指標)(Blood 2012)。また、このPNH患者においてGPI結合型NKG2DリガンドULBPが欠損し、PNH型血球の比率増加が認められたことは(Br J Haematol 2013)、NKG2D免疫が造血障害のみならずクローン選択にも関与している可能性が示唆された。これらの結果より、NKG2D免疫が特発性造血障害の免疫病態を直接反映する指標である可能性が支持された。しかし、治療中止の指標として有用か、微少PNH型血球との比較によるNKG2D免疫が免疫病態の指標として優れているかの検証は、稀少疾患であるため症例数確保に時間が必要であり現在も継続中である。
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