研究課題
【研究の目的】造血幹細胞は多分化能と自己複製能を有した細胞であるが、その機能維持にはニッチの存在が必要と考えられている。 骨髄に履いては骨芽細胞がそのニッチとして機能している事が示唆されているが、脾臓などの他の器官でのニッチについては不明な点が多い。そこで我々は、脾臓などの髄外造血モデルを用いて骨髄以外のニッチ細胞の同定を試みた。その結果、脾臓に於いて巨核球様 (MLCs: Megakaryocyte-like cells)の細胞が造血幹細胞近傍に存在し、様々なニッチに関わる分子を発現している事を明らかにした。 またin vitroで造血幹細胞の増殖を促進する事が明らかとなった。【研究結果】そこでMLCsの分子基盤を明らかにする目的で髄外造血モデル及びCFU-Sモデルを用いてMLCsを単離し、cDNAを合成しDNAマイクロアレイ解析を行い、MLCsに高発現する分子を多数同定した。MLCsは造血幹細胞(LSK細胞)移植後8日目には赤脾随内に集合し、SDF-1やOPN、N-cadherinなどを発現することが明らかとなった。GFPマウスより分取したLSK細胞の追跡の結果、多くのGFP陽性L SK細胞がMLCs細胞近傍に存在している事が明らかとなった。そこで、MLCをCFU-S8の脾臓及び通常の脾臓より分取し、KSL細胞と共培養した結果、CFU-S8由来のMLC細胞は、KSL細胞の維持と増殖に寄与している事が明らかとなった。また、同様の細胞が放射線照射後や抗がん剤投与後の骨髄再建が起きる時にも認められる事から、MLCが一過性のニッチ形成のみならず、再建時においても重要な役割を示す事が示唆された。これらの結果より、脾臓内では血管内皮などに加え、MLC細胞などが様々なCytokineを産生し造血幹細胞の増殖に寄与している事が 明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では髄外造血など定常状態ではない造血に関し、新たな造血ニッチを同定し、その特性を解明する事を目的としている。本研究 において我々は髄外造血機構を用いて、脾臓内に新たな巨核球様(MLCs: Megakaryocyte-like cells)の細胞がニッチ細胞の一つとして 機能する事を示す事ができた。また予定通りMLCヲ分取し、分子基盤を解明する事で、巨核球との違い、他のニッチ細胞との違いも含め明らかにする 事ができた。その中で、既存のニッチ分子が高頻度で発現している事を明らかにし、更に、in vitroでもKSLの維持と増殖に寄与していることを明らかにすることに成功した。また、CFU-Sのみならず、放射線障害や抗がん剤投与モデルにおける骨髄再建時にもMLCの出現が認められる事を発見した。
今後は計画予定通り、これらのニッチ細胞において発現している分子のうち、新規のもの、未知のものについて、SiRNAを作製し、機能阻害をおこなった場合、KSLの維持においてどのような影響、特に細胞分化、Stemnessへの影響を検討し、新しいニッチ分子を同定する事を目的とする。また、ここまでのデータを論文として発表する準備を行っている。
研究論文発表に関する費用及び最終の追試実験等に用いる。
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