本研究は自己免疫疾患発症のメカニズムを解明することを目的に、申請者が最近見出した新しいT細胞の活性化様式、拡張抗原提示‘Extended antigen presentation (EAP)’の解析を行った。これまで2種類のT細胞レセプター(TCR)トランスジェニック(Tg)マウスのCD4陽性T細胞(TEaとOT-II)を用いた実験系「拡張抗原提示モデル」で解析を行ってきた。一方を大量の抗原に反応して十分に増殖するResponder、もう一方をごく少量の抗原に反応するAssociatorとし、この2組のT細胞と抗原を抗原提示細胞と共に、抗原量を種々に変化させて培養しFACSにて各々のT細胞の分裂を解析した。 3種類のTCRTgマウスのCD4陽性T細胞(TEa、OT-IIと2D2)を用いた実験系を新たに構築し、Responder、Associatorとは別に特異抗原の存在しないThird partyを設定することで、拡張抗原提示によるT細胞活性化の抗原特異性を証明出来た。また、各々のT細胞の役割を入れ替えて解析を行い、拡張抗原提示が特定の抗原特異的T細胞にのみ観察される現象でないことが証明された。抗原刺激を増幅する因子として共刺激分子についても検索し、ICOSL、OX40の寄与は見出せなかった。また、生体内での拡張抗原提示によるT細胞の活性化や、自己免疫疾患の発症への関与を検討するためにin vivoの実験系を構築している。 多様な自己抗原に対する免疫応答の出現は自己免疫疾患の特徴であるが、拡張抗原提示によるT細胞の活性化はその免疫学的基盤の一つと考えられるエピトープスプレディングの細胞レベルでの現象である可能性が考えられる。拡張抗原提示の抗原特異性と普遍性の証明は、自己免疫疾患の発症や病勢に拡張抗原提示によるT細胞の活性化が関与している可能性を示唆する重要な結果と考えられる。
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