研究課題
ヒストンタンパク質の修飾は、アセチル化やメチル化など様々なものが知られており、多くの生物学的現象において重要な役割を担っている。ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4)により修飾されるヒストンH3のシトルリン化は、遺伝子発現制御に関わることが知られているが、その生理的意義はほとんど分かってない。最近、骨髄中の造血幹細胞及び多能性前駆細胞(Lineage- Sca-1+ c-kit+; LSK細胞)におけるPAD4の高い発現を見いだし、LSK細胞におけるPAD4の生理機能を研究した。PAD4欠損(PAD4-/-)マウスと野生型(WT)マウスのLSK細胞を用いたマイクロアレイ解析、定量的RT-PCR、イムノブロット法により、PAD4-/- LSK細胞において、がん遺伝子c-mycの発現が高いことが示された。また、クロマチン免疫沈降法によりc-myc遺伝子上流におけるPAD4の結合が示され、その領域のヒストンH3がシトルリン化されていた。また、PAD4-/-マウスではヒストンH3のアルギニン残基メチル化が亢進しており、PAD4がc-mycの発現制御に関わることが示唆された。さらにPAD4は、Wnt-β-cateninシグナル経路の下流で作用する転写因子LEF1や、ヒストン脱アセチル化酵素との相互作用を明らかにした。PAD4は、これらタンパク質と複合体を形成しc-mycの遺伝子発現制御に関わることが示唆された。さらに、PAD4-/-マウス骨髄中のLSK細胞特に造血多能性細胞は、WTマウスと比較して増殖が盛んになっており、その割合や絶対数が増加していた。これらのことから、PAD4は骨髄造血多能性細胞においてc-mycの発現を制御し細胞増殖を調節していると考えられる。また、PAD4が骨髄球増多症などの造血系疾患の発症に関わる可能性がある。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Nature Communications
巻: x ページ: x
10.1038/ncomms2862