研究課題/領域番号 |
23791114
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
千貫 祐子 島根大学, 医学部, 助教 (00294380)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 食物依存性運動誘発アナフィラキシー / 小麦 / 血中グリアジン濃度 / プロスタグランジン / 腸管上皮 / 粘膜バリアシステム |
研究概要 |
「運動やアスピリン内服が抗原吸収を促進する」とする仮説を実証するため、小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシー(Food-dependent exercise-induced anaphylaxis: FDEIA)患者において、主要原因抗原である小麦グリアジンを特異的に検出できる高感度ELISAを用いて負荷試験時の血中グリアジン濃度を測定した。負荷試験前後に経時的に採血を行い、エタノール抽出によりエタノール可溶性のグリアジン分画を測定した。その結果、小麦単独負荷の場合には血清中のグリアジンは検出されないか、または極低濃度であるのに対して、小麦+運動またはアスピリン負荷で症状が誘発された場合には、症状に先行して血中グリアジン濃度が上昇することを明らかにした。このことは小麦製品を経口摂取した場合、抗原分子は体内には吸収されないか、あるいは症状を誘発しない程度の量しか吸収されないが、運動やアスピリン負荷により多量の遊離抗原分子が吸収されると、体内でIgEと反応してアレルギー症状をきたすことを示している。健常人10人についても同様の試験を行い、小麦+運動またはアスピリン負荷による小麦蛋白抗原の吸収増加を認めた。 さらに小麦+運動またはアスピリン負荷により誘発された症状は、プロスタグランジンE1製剤を同時に内服すると抑制され、かつ血中のグリアジン濃度の上昇も抑制された。健常人10人についても同様の試験を行い、プロスタグランジンE1製剤を同時に内服することにより血中のグリアジン濃度の上昇が抑制されることを証明した。 この結果は、運動やアスピリンによる腸管からの抗原吸収増強作用には、cyclooxygenaseの阻害によるプロスタグランジン産生抑制作用が関与していることを示している。裏返せばプロスタグランジンは腸管上皮の粘膜バリアシステムに重要な役割を担っていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の検討目標であった「ヒト生体内における小麦抗原の吸収に及ぼす運動、アスピリン内服の影響の系統的な研究」は、年度内に終了した。ここまでのデータについては、現在論文作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に証明したデータを元に、運動やアスピリンによる腸管からの抗原吸収増強作用には、cyclooxygenaseの阻害によるプロスタグランジン産生抑制作用が関与していることを、腸管上皮モデルを用いて検証する。 さらに、近年本邦で大きな問題となっている加水分解コムギの経皮感作による小麦アレルギーの発症についても、同時に検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2重槽培養セルを使用して、腸管上皮細胞株HT29細胞を培養し、アスピリンやプロスタグランジン添加による小麦抗原の透過性を検証する。このため、腸管上皮細胞を購入し、2重槽培養プラスチック器具や培地・培養プラスチック器具などを購入する予定である。さらに腸管上皮モデルを透過する小麦グリアジン濃度を測定するために、高感度ELISAキットを購入する予定である。 さらに、近年本邦で大きな問題となっている加水分解コムギの危険性を検証するために、免疫ブロットや好塩基球活性化試験などを用いて、小麦の抗原性についても検討する。このため、Allergenicity kitを購入し、好塩基球活性化試験も行う予定である。
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