研究課題/領域番号 |
23791119
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
渡辺 雅人 杏林大学, 医学部, 助教 (00458902)
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キーワード | 自己抗体 / 市中肺炎 / G-CSF / キャリアプロテイン |
研究概要 |
具体的内容:① G-CSF自己抗体の測定: 血清中の抗G-CSF自己抗体陽性率は、市中肺炎患者(90%、N=50)と健常者(67%、N=27)で、肺炎患者が有意に高値だった。自己抗体値は、肺炎患者が健常者よりも有意に高値だった。② 自己抗体のG-CSF中和活性を解析: (A) NFS-60細胞(G-CSF依存性株)を用いたバイオアッセイでは、抗G-CSF自己抗体に中和活性は認めなかった。(B)一方、肺炎患者の血清中にG-CSF-自己抗体複合体が存在し、バイオアッセイでG-CSF活性を認めた。④ 自己抗体値の経時変化は、肺炎治療開始直前よりも、開始後(3、7、14日後)で有意に高値だった。また、14日目の抗体値は、入院前の白血球数、好中球数と有意に相関した。 意義:市中肺炎患者では、自己抗体の陽性率、抗体値ともに健常者よりも高いことが分かった。自己抗体は中和抗体ではなく、むしろキャリアプロテインとして働くと分かった。また、好中球性炎症が、自己抗体産生を惹起する可能性が示唆された。 重要性:好中球性炎症後に自己抗体の産生が惹起されることを明らかにした。自己抗体自己免疫疾患の病態に中心的な役割を果たすが、その産生機序はほとんど解明されていない。我々のデータは、自己抗体産生機序に迫る重要な知見である。また、疾患患者のみでなく、健常者にもG-CSF自己抗体が広く存在すること、自己抗体がキャリアプロテインとして働くことは、これまで認識されていなかった。自己抗体の新たな機能を示唆する点で、重要な所見と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度:抗G-CSF自己抗体の精製・測定系の開発: ① 抗G-CSF自己抗体の精製:G-CSF結合アフィニティークロマトグラフィーカラムで、抗G-CSF自己抗体を精製する技術を確立した。② 精製抗体の結合特異性の確認: 精製した抗G-CSF自己抗体がG-CSFには結合し、IFNαには結合しないことを確認した。③ 抗G-CSF自己抗体の測定系を確立: 血清をG-CSFアフィニティーカラムに反応させ、G-CSF結合物質を溶出させた後に、溶出液中の自己抗体価をELISAで測定した。これにより、通常のELISAよりも高感度に自己抗体を測定することを可能にした。④ 自己抗体の標準化: γグロブリン製剤から自己抗体を大量に精製し、自己抗体を測定する際の標準抗体を確立した。 平成24年度:抗G-CSF自己抗体の機能解析: ④ 自己抗体の測定: 市中肺炎患者では、抗G-CSF自己抗体の陽性率価、抗体値ともに健常者よりも有意に高いことを明らかにした。⑤ 自己抗体のG-CSF中和活性をもたないことが分かった。⑥ 自己抗体は非中和抗体であるため、G-CSFシグナル伝達への影響は解析しなかった。⑦ 一方、 自己抗体はG-CSFキャリアプロテインとして働く可能性があることを発見した。⑧ 好中球性炎症がG-CSF自己抗体の産生刺激である可能性が示唆された。 研究実施計画書に記載した7項目(23-24年度の計画)のうち、6項目の解析を終了した。このため、研究は概ね順調に進展していると評価いたします。
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今後の研究の推進方策 |
G-CSF-自己抗体複合体の機能を解析: G-CSF-自己抗体複合体がFc受容体を介して、G-CSFシグナルを好中球に伝達しうるかを、STAT、Ercを検出するwesternblotで解析する。 G-CSF自己抗体と好中球の関係の解析: これまでの研究成果からは、自己抗体が好中球機能を制御するのではなく、好中球性炎症が自己抗体産生の刺激になっている可能性が示唆される。肺炎患者の臨床データベール、肺炎患者における自己抗体値の経時変化、G-CSFの蛋白量の経時変化(ELISA)、血清中のG-CSF活性の経時変化(バイオアッセイ)をもとに多変量解析を行い、自己抗体産生を制御する因子を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.血清中のG-CSF活性の測定 血清中のG-CSF活性をM-NSF-60細胞を用いたバイオアッセイで測定し、自己抗体価との関係をかいせきする。 2.G-CSF-自己抗体複合体の機能解析 血清中に存在するG-CSF-自己抗体複合体を精製する。複合体の好中球やM-NSF-60細胞に転化し、STATなどを測定する。免疫複合体のシグナル伝達経路を解析する。
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