研究課題
これまでの肺炎治療は細菌と抗菌薬の二次元的視点にたって行われてきたが,われわれは,抗炎症の視点からの第三の治療を加えることにより,効率的,効果的な肺炎治療を目指して研究を進めてきた.われわれはin vitroの研究結果から,感染症重症化の背景に,細菌-肺細胞のbacteria-cellular signalingを介した積極的な細胞死(ネクローシス様細胞死)が関与している可能性を報告しており,引き続く過剰炎症を制御することによる治療応用を主にin vivoで試みたところ,これまでのところ以下の様な結果が得られてきた.(1)炎症メディエーターHMGB-1の感染局所での増加:感染症重症化に伴い肺炎局所での還元型HMGB-1(炎症誘導型)が増加:アポトーシスにおける酸化型HMGB-1(炎症非誘導型)とは対照的な,ネクローシス型の還元型HMGB-1が増加.(2)カテプシンB阻害による効果:レジオネラ菌動物感染モデルでのカテプシンB阻害薬による重症化阻止効果:積極的細胞死のsignalingを仲介するカテプシンBを標的とした治療介入 (3)HMGB-1阻害による効果:ヒトリコンビナントトロンボモジュリンが持つ抗炎症作用:複数の病原体による肺感染症モデルにおいて,既存の抗菌薬との併用で炎症性サイトカイン産生や,感染局所への炎症細胞浸潤を抑制しつつ予後を改善. 興味深いことに,抗炎症作用のみでは逆に悪化することもあり,病原体-抗菌薬-抗炎症の三者のバランスが重要であることを示唆する結果であった.われわれの結果から,特に重症肺炎における救命率向上などの効果が期待できることが示された.更に現在,生体の免疫応答を詳細な解析を進めており,一次免疫応答に関わる可能性がある免疫担当細胞とこれらの成果との関連性を探索している.
1: 当初の計画以上に進展している
過去に報告したin vitroでのわれわれの研究成果を元にした仮説が,in vivoにおいても成果が徐々に現れつつある.特に,治療介入実験効果が得られている薬剤のひとつは,既に臨床現場で使用されている薬剤であり,この薬剤の新しい作用に着目したものである.つまり,われわれの研究結果は臨床応用の可能を含んだものであり,注目すべき結果である. 以上のように進展している反面,「抗炎症作用のみでは感染症が悪化する可能性」という今後取り組むべき新たな課題も出てきたことも事実である.しかしながら,むしろわれわれの着眼点が間違いではないことを裏付けたものであり,今後の研究発展が期待できるものと捉えている.
炎症誘導物質HMGB-1と治療介入薬剤との分子生物学的な相互作用に着目して,動物実験で得られた結果の詳細な機序解明にせまる.炎症誘導に関わる細胞の遺伝子発現や,サイトカイン産生状況のアレイ解析による網羅的検索を介して標的を絞る.また,特にkey moleculeであるHMGB-1との関係は,共免疫沈降法や蛍光色素によるFRET法などによる物理的な相互作用解析方法を用いるほか,HMGB-1作用中和による免疫応答の変化などを駆使して,その病態を解明する.
アレイ解析動物購入分子生物学的な標的分子と生体反応との相互作用(ウエスタンブロット,免疫沈降,蛍光免疫染色など)
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