研究課題
(1)抗菌量のレジオネラ菌は,積極的にTHP-1細胞をネクローシス様細胞死(Necrotic cell death)に誘導することを明らかとした.またこの機序にはカテプシンBというリソソーム酵素の急激な活性上昇が関わっていた.結果として,強力な炎症メディエーターであるHMGB1が細胞外へ遊離しており,重症化の一因である可能性を突き止めた.また,動物モデルにおいても,HMGB1は明らかな上昇を示し,病態との関連性が示唆された.(2)HMGB1は還元型HMGB-1(炎症誘導型)と酸化型HMGB-1(炎症非誘導型)に分類できるが,動物実験モデルで肺内で観察されるHMGB1は還元型であり,in vitroでの結果を支持するものであった.(3)レジオネラ菌動物感染モデルでのカテプシンB阻害薬(CA074Me)による重症化阻止効果を認めた.(4)HMGB1をターゲットにマウスモデルで阻害実験を行った.抗HMGB1抗体のみでは,十分な改善効果を認めなかったが,HMGB1分解作用をもつトロンボモジュリンは,複数の病原体による肺感染症モデルにおいて,既存の抗菌薬との併用で炎症性サイトカイン産生や,感染局所への炎症細胞浸潤を抑制しつつ予後を改善した.(5)われわれの結果は,炎症制御の視点からの治療が,特に重症肺炎における救命率向上などの効果が期待できることを支持するものであった.抗菌薬と,新しい機序からの抗炎症治療は,現在の耐性菌蔓延の現状や複雑化・高度化した医療における感染症の新しい治療戦略の一つとして期待できると考えられた.本研究を通して興味深い所見として,抗炎症作用のみでは逆に悪化する感染症もあり,病原体-抗菌薬-抗炎症の三者のバランスが重要であることを示唆する結果であった.抗炎症の視点を含めた感染症治療アプローチが,新時代の戦略のひとつとなり得ることを証明した.
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Diagnostic Microbiology and Infectious Disease
巻: in press ページ: in press
pii: S0732-8893(13)00055-2