研究概要 |
Aspergillus fumigatus(AF)の細胞壁はβ-1,3-glucan,α-1,3-glucan,chitin,ガラクトマンナンなどで構成されており,バイオフィルム(BF)ではα-1,3-glucanが重要な要素の一つである.本年度はα-glucanase(AG)がAFの成長およびBF形成に与える影響、およびAFと宿主細胞の免疫応答に対する影響について解析した。 AF分生子を液体培地で振盪培養したところ,AG添加群で培養3時間後の分生子凝集及び24時間後の菌塊形成が抑制された.次に分生子を液体培地にて静置培養したところ,鏡検ではAG添加の有無で24時間後の菌糸成長に明らかな差はないものの,共焦点レーザー顕微鏡ではBFの厚さに差異を生じていた.またAG添加群では,気道上皮細胞H292への分生子接着が抑制されていた.AFのBFに対する抗真菌薬の薬剤感受性を,XTTを用いて測定したところ,AF B-5233株ではアムホテリシンB,ボリコナゾール,ミカファンギンにおいて,BF形成に伴う薬剤耐性化が確認された.AG単剤でMICへの影響はなく,また他の抗真菌薬との併用効果も認めなかった. 次に、ヒト単球THP-1細胞をAFで刺激したしたところ,IL-8,TNF-α等の炎症性サイトカインが誘導されていた。また、このサイトカイン産生は、AFが分生子から成長する過程で、菌糸が伸長する時期に最も多く産生されていることが分かった。さらに、AG添加によりこのサイトカイン誘導能が増強されていた. 以上の結果より、AGのAFに対する直接的な抗真菌活性は認めないものの,分生子の凝集および気道上皮細胞への接着が減弱しており,初期のBF形成を抑制する可能性が示唆された.またAG添加によりサイトカイン誘導能が増強されており,AGが宿主細胞のAF認識能を高めている可能性が示唆された.
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