研究課題/領域番号 |
23791143
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
原田 壮平 東邦大学, 医学部, 非常勤研究生 (30591630)
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キーワード | 肺炎桿菌 / 莢膜血清型 / 病原因子 / MLST / パルスフィールドゲル電気泳動 / rep-PCR |
研究概要 |
本研究の目的は本邦の肺炎桿菌臨床分離株における高病原性株、特に莢膜血清型K1株, K2株の疫学と病原性を付与する因子を調査することである。過去の知見から、これらの菌株は特に肝膿瘍形成のリスクとの関連が高いと推測されている。 平成23年度に全国から収集した肺炎桿菌臨床分離株の分子生物学的解析により、K1株14株、K2株16株を抽出し、これらの株のMultilocus sequence typingにより決定されたST typeや主要病原因子プロフィール(rmpA遺伝子など)を確認している。これらの菌株間の病原性の差異およびその差異を生み出す因子についてマウス感染モデルを用いて検証するための予備実験としてK1のrmpA遺伝子保有株(SH123)とK1のrmpA遺伝子非保有株(SH400)を用いて、感染実験を行った。6週齢のBalb/cマウスに対象株を10000CFU腹腔内投与し、2週間の観察を行った。結果、両群ともにほぼすべてのマウスが死亡し、rmpA遺伝子保有株投与群ではびまん性肝膿瘍形成が見られたのに対して、rmpA遺伝子非保有株投与群では、微小肝膿瘍の散発を認めた。以上から、同プロトコールにより対象菌株の腹腔内投与から肝膿瘍に至る感染実験が可能であることが確認され、投与菌量の調整や肝の肉眼的、顕微鏡的観察により各菌株の病原性評価が可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在の達成度は当初の予定よりは遅れている。その第一の理由としては、研究計画時点で施行を予定していなかった複数の解析を追加したことがある。追加した解析としては肺炎桿菌株の正確な同定を意図して、すべての収集株に対して遺伝学的手法(16S-23S ITSのPCR)と生化学反応(マロン酸試験とVP試験)による同定菌名の確認を追加したこと、DiversiLabシステムを用いたrep-PCRによるクローナリティ解析を追加したことが挙げられる。第二の理由として、平成24年度については研究代表者の人事異動により本研究に費やす時間の制約が生じたことにより、動物実験の遂行が困難となり、少数の導入的な実験を実施するに留まったことがある。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては当初の研究計画を変更し、国内複数医療機関から肺炎桿菌の血液培養分離株を収集し、これらの分離株の遺伝学的解析を行うこととする。菌株の解析手法には本研究の前半部分において用いた実験プロトコールを用いることができるために実施に確実性があるとともに実験の性質上、現在の研究代表者のスケジュールにおいても遂行が可能である。本研究の前半部分が臨床情報との関連なく収集された菌株の解析であったのに対して、今回は血液培養検出株、すなわち感染症起因菌株に限定した解析となり、なおかつ感染臓器や患者背景などの臨床情報を加味した解析が可能となるため感染症学的視点から、より有益な情報を得ることが期待できる。また、時間的に可能な範囲でマウス感染モデルを用いた各菌株の病原性の比較も継続する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においては当初同年度で実施予定であったマウス感染モデル実験が少数の導入的な実験を実施するに留まったため、使用しなかった研究費が生じた。これは、平成25年度において、上記の新たな臨床分離株の収集と分子疫学的解析を実施するために用いる予定である。すなわち、菌株の保存および収集費用、DNA抽出試薬、PCR関連試薬、PCR増幅産物精製試薬、シーケンサー関連試薬、パルスフィールドゲル電気泳動関連試薬の費用などとして用いる。また、マウス感染実験の実施が可能であれば、マウス購入、マウス飼育、感染実験に用いる菌株の接種菌量や感染菌量の定量ための培地等の費用にも充てる。
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