研究課題/領域番号 |
23791158
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
赤羽 弘資 山梨大学, 医学部附属病院, 助教 (90377531)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 急性リンパ性白血病 / 骨髄球系抗原 / CD33 / E2A-HLF |
研究概要 |
最近、単球系への分化能を併せ持つリンパ球前駆細胞の存在が確認され、小児B前駆細胞型急性リンパ性白血病(ALL)で時に認められる骨髄球系抗原の発現が改めて注目されている。このうちCD33の発現は、治療成績が改善した今日においても予後不良因子とされている。我々は、小児ALLの中でも極めて予後不良である17;19転座ALLではCD33が高頻度に陽性であり、17;19転座に由来するE2A-HLF融合遺伝子がCD33の発現を誘導していることを報告した。本研究は、ALLにおけるCD33の発現機序を解明し、CD33発現の白血病細胞の増殖や生存、薬剤耐性への影響を明らかにすることを目的としており、本年度はE2A-HLFによるCD33の発現誘導の機序に焦点を絞り解析を行った。17;19転座型ALL細胞株でCD33遺伝子プロモーターのレポーター解析を進めたところ、E2A-HLFによるCD33の発現誘導にはプロモーター上のPEA3 siteが必須であった。PEA3 siteに結合する転写因子としてはETV1(Er81)、ETV4(Pea3)、ETV5(Erm)が知られているが、17;19転座型ALL細胞株でこれらの転写因子の遺伝子発現を解析したところ、CD33の発現とは明らかな相関を認めなかった。またE2A-HLFを遺伝子導入したB前駆細胞型ALL細胞株で前述のPEA3結合転写因子の発現を解析したところ、E2A-HLFの発現によりCD33の発現が誘導されても、PEA3結合転写因子の遺伝子発現には変化を認めなかった。PEA3 siteは代表的な小児難治性ALLであるPhiladelphia染色体(Ph1)陽性ALLや11q23転座型ALLのCD33発現においても必須であることから、今後もPEA3 siteの活性化を介したALLにおけるCD33の発現誘導の機序について更なる解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
我々はE2A-HLFによるCD33の発現誘導機序の解析の中で、E2A-HLFによるCD33の発現誘導にはプロモーター上のPEA3 siteが必須であることを見出いだしだが、現時点ではPEA3 siteの活性化を介したCD33の発現誘導の詳細な機序を同定するには至っていない。PEA3 siteに結合する転写因子および転写制御因子がCD33の発現誘導に関与する候補因子であると考えられたため、本年度はETV1(Er81)、ETV4(Pea3)、ETV5(Erm)についてその可能性を検討したが、現時点ではその関与を示唆する結果は得られていない。CD33の発現誘導に関与する候補因子が同定できれば、shRNAを用いた候補因子の発現抑制、および候補因子を遺伝子導入した系でそれぞれCD33発現への影響を解析することが可能となり、また17;19転座型ALLの結果をPh1陽性ALLや11q23転座型ALLで検証することが実現できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)17;19転座に由来するE2A-HLFによるCD33発現の誘導機序の解明前述のようにE2A-HLFによるCD33の発現誘導にはプロモーター上のPEA3 siteが重要であるため、今後はE2A-HLFがPEA3 site結合転写因子の発現を介してCD33の発現を誘導する可能性や、これらの転写因子と相互作用する転写制御因子の発現を介してCD33の発現を誘導する可能性について解析を進める。またPEA3 site結合転写因子の活性は、RAS/MAPK経路によるリン酸化やアセチル化、SUMO化により制御されるため、これらの転写因子の翻訳後修飾に対するE2A-HLFの影響を検討する。また、同定された候補因子がリンパ球系前駆細胞での単球系の分化決定に関与している可能性についても検討する。(2)Ph1陽性ALLや11q23転座型ALLでのCD33発現機序の解明われわれは既に、CD33が高頻度に観察されるPh1陽性ALLや11q23転座型ALLにおいても、前述のPEA3 siteがCD33の発現誘導に重要であることを確認している。転座由来の融合遺伝子産物がCD33の発現に関与している可能性を明らかにするとともに、CD33発現誘導の機序に関しては (1)と同様に解析を進める。(3)CD33発現がALLの予後不良に関与する生化学的および生物学的機序の解明CD33の発現がALLの予後不良因子となる理由として、CD33発現を制御するPEA3 site活性化に関わる分子機構が白血病細胞の増殖や生存、薬剤耐性に関与している可能性や、CD33分子自体が関与している可能性が考えられる。この点に関して、(1)(2)とも関連させて明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策に示した(1)に関しては、具体的な実験計画として、(A)PEA3 site結合転写因子および転写制御因子のALL細胞株における発現レベルを解析し、CD33の発現に関与する候補因子を同定。(B)E2A-HLF導入細胞でCD33発現誘導における前述の候補因子の発現の変化を解析。(C)shRNAを用いた候補因子の発現抑制、および候補因子の遺伝子導入によるCD33発現への影響の解析。(D)17;19転座型ALL細胞株におけるPEA3結合転写因子の翻訳後修飾の解析。などを計画している。また、(2)においても(1)の実験系を用いて解析を進める予定である。(3)については、(1)でCD33発現に関与する候補転写因子が同定された後に具体的な研究計画を立てる。本解析の大部分は、研究室および実験機器センターの既存の設備で解析可能であるため、実際には細胞株の維持や細胞株の分子生物学的解析・薬剤添加試験にかかる消耗品購入費用が研究経費の大部分を占める。具体的には、平成21-22年度の若手研究Bで使用した実験系を用いて解析する予定であるため、必要経費は同実験で使用した消耗品や抗体・real-time RT-PCRキット・各種試薬などにかかった経費をもとにして積算した。消耗品のうち最も経費を要するのが白血病細胞の培養系で、牛胎児血清とサイトカインのために30万円を計上した。Real-time RT-PCRについてはApplied Biosystem社のアッセイがデータの安定性が高く、同様にshRNAについても同社の既製品を購入して利用する予定であるため、それぞれに30万円を計上した。今年度の研究費の残金は、実施内容に区切りがついたため、次年度の消耗品購入に充当する。
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