研究課題/領域番号 |
23791160
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
廣瀬 衣子 山梨大学, 医学工学総合研究部, 医学研究員 (70436880)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | LMO2 / B細胞性白血病 |
研究概要 |
LMO2はT細胞や赤芽球の初期分化に必須の転写因子で、LMO2遺伝子の過剰発現によりT-ALLを発症することが知られている。一方でLMO2のB細胞への関与については今までに検討されてこなかったが、我々は予後不良である17;19転座型ALLにおいて、転座により形成されるE2A-HLF融合遺伝子がLMO2の過剰発現を誘導して白血病の発症へと至らしめる可能性を見出した。この解析のなかではLMO2がB細胞の初期分化に関与しており、その発現制御の異常がB細胞分化を障害して白血病の発症につながる可能性が強く示唆されている。さらに、予後不良である11q23転座型ALLでも高頻度でLMO2が高発現しており、LMO2の発現が予後に関与している可能性が示唆される。そこで本研究では、B細胞の正常分化の過程とその破綻による白血病の発症におけるLMO2の意義をさらに明らかにして、B前駆細胞型ALLの新たな治療戦略の糸口を得ることを目的とした。 McCormackらの報告によると、T-ALL患者の検体を用いたマイクロアレイ解析でLMO2が過剰発現することでLyl1、Hhex、Kit、Nfe2といった遺伝子の発現が誘導されており、このうちHhexを過剰発現させると胸腺細胞が長期間生存することから、HhexがT細胞の自己複製に関わっていることが証明された(Science. 2010)。このことはHhexがLMO2の下流遺伝子として働き、白血病細胞の生存にかかわっている可能性を示唆する。そこで、平成23年度はB細胞性白血病におけるLMO2とHhexとの関連について解析を進めた。まず、B細胞性白血病細胞株における、LMO2およびHhexの遺伝子・蛋白発現について解析し、つぎにLMO2のsiRNAを導入した細胞株でのLMO2およびHhexの発現の変化について解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、B前駆細胞型ALL細胞株28株について、Hhexの遺伝子発現をreal-timePCR法で解析し、LMO2遺伝子発現との相関を調べた。LMO2が高発現している17;19転座のみならず、予後不良な11q23転座型ALLでもLMO2、Hhexともに高発現している細胞株が複数株みられた。そこでHhexの蛋白発現について解析したところ、11q23転座型ALL細胞株では遺伝子発現は高いにもかかわらず蛋白発現が認められず、蛋白発現に他の要因が関わっている可能性が考えられた。 そこで、LMO2、Hhexともに遺伝子発現が高い細胞株でLMO2のsiRNAをエレクトロポレーション法で導入してLMO2をノックダウンし、Hhex発現の変化や細胞死が誘導される、あるいは細胞周期が停止するといった細胞の生存にかかわる変化が見られるのか現在解析を進めている。リンパ球系の細胞株は以前からsiRNAの導入が難しいことが知られているが、AppliedBiosystem社のNeon transfection sytemを用いたエレクトロポレ-ションで、さらに複数のsiRNAを混合して導入することでLMO2の発現を約4割程度に抑えることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
LMO2の発現と関連するB細胞分化の事象を明らかにすることを目的として、現在の解析を続けると共に以下の項目について検討する。(1)LMO2発現による白血病形質の違いの検討:B前駆細胞型ALL細胞株28株を、LMO2の発現レベルで高発現群、中間発現群、低発現群に分けて、細胞表面抗原発現、B細胞分化に関わる転写因子群や造血因子受容体の遺伝子発現レベル、遺伝子発現プロファイリングについて比較を行う。(2)LMO2の標的遺伝子の同定とその解析:LMO2がB細胞分化において制御している転写機構を明らかにするために、LMO2を高発現している17;19転座型ALL細胞株において、抗LMO2抗体によって全ゲノムクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-Seq)を行い、LMO2を含む転写複合体が結合しているDNAの塩基配列をリスト・アップする。(3)ALLでのLMO2遺伝子発現における近位および遠位プロモーターの活性の検討:LMO2は近位および遠位の2つのプロモーターによって制御されているが、B前駆細胞型ALLで近位および遠位プロモーターのバランスが細胞株ごとに異なることから、近位および遠位プロモーターのルシフェラーゼ・アッセイによってプロモーター活性と遺伝子発現レベルとの相関を明らかにする。さらに、主な転写因子の結合配列に変異を導入してルシフェラーゼ・アッセイを行い、それぞれのプロモーター活性に必須の領域を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)LMO2発現による白血病形質の違いの検討:B細胞分化に関わる転写因子群や造血因子受容体の遺伝子発現レベルについては、real-time PCR法で解析する。候補となる遺伝子のTaqManや解析に使用するマスターミックスなどの試薬の費用にあてる。(2)LMO2の標的遺伝子の同定とその解析:LMO2の全ゲノムクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-Seq)は、クロマチン免疫沈降を当研究室で行い、シーケンスについては広島大学原医研の稲葉教授の研究室で共同研究という形で行っていただく予定である。免疫沈降に必要な試薬の購入費用にあてる。(3)ALLでのLMO2遺伝子発現における近位および遠位プロモーターの活性の検討:近位および遠位プロモーターのプロモーター活性と遺伝子発現レベルとの相関を明らかにするためルシフェラーゼ・アッセイを行う。さらに、主な転写因子の結合配列に変異を導入してそれぞれのプロモーター活性に必須の領域を明らかにする。ルシフェラーゼ・アッセイ解析はすでに当科でルーチンに行われており、コンストラクト作成の手技等も習得済みである。解析キットの購入費用にあてる。以上のように研究費は解析用の試薬などの消耗品に使用する予定である。なお、今年度の残金については、実施内容に区切りがついたため、次年度の消耗品の購入にあてる。
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