研究課題
母乳による小児肥満への抑制効果は疫学的研究結果により強く支持されている。しかしメカニズムは十分明らかにはなっていない。 多くの脂肪細胞は胎児期後期から新生児期にかけて前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞へ分化する。この時期の栄養は成熟脂肪細胞の量および質を決定する。よって母乳の小児肥満への抑制効果は児の脂肪細胞への直接的作用により発揮されている可能性が考えられるが、これまで基礎的研究はほとんどなされていない。そこで母乳による3T3-L1脂肪細胞への効果につき検討した本研究によって明らかにしたことは、以下の項目である。①母乳は、全乳にて3T3-L1前駆脂肪細胞分化誘導作用を示し、脂肪分を除去するとその作用は消失した。またこの分化誘導作用は、標準的な脂肪細胞分化誘導剤による作用を増強した。②母乳抽出脂質成分は、標準的分化誘導剤の非存在下において、単独で前駆脂肪細胞分化誘導効果を示した。また母乳脂質によって分化誘導された脂肪細胞は、最終的に成熟脂肪細胞に特徴的な遺伝子群が十分に発現誘導された。①および②は、人工乳には認められなかった。③抽出した母乳脂質を3T3-L1脂肪細胞に添加しマイクロアレイ解析を行ったところ、SCD1の発現の抑制が確認された。SCD1はリポジェニック酵素でありその抑制は抗肥満・抗メタボリック症候群効果を発揮することが知られている。以上の結果の考察として以下の2つを提示する①脂肪細胞は主に前駆脂肪細胞の段階にてその数を増やし分化後の成熟脂肪細胞は活発な増殖をしない。母乳が生後早期の児において前駆脂肪細胞を積極的に成熟脂肪細胞に誘導することは、脂肪細胞数の増加を抑制することに繋がる。②母乳脂質によるSCD1抑制効果が確認されたことより、母乳に特異的な脂質または、脂質の配合比などが児の脂肪組織へ直接的に働いて、抗肥満効果・抗メタボリック効果を発揮する可能性を示す。
すべて 2015 2014
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