研究課題/領域番号 |
23791169
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大嶋 宏一 京都大学, iPS細胞研究所, 研究員 (60525377)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 細網異形成症 / Adenylate kinase 2 |
研究概要 |
細網異形成症患者は診断後速やかに造血幹細胞移植が行われ、患者からの血液細胞での研究はほぼ不可能であるため、患者由来iPS細胞樹立は非常に有望と考えられる。本邦に存在する患者2名の骨髄間質細胞に、4種の初期化因子(Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2)をレトロウイルスベクターやセンダイウイルスベクターで導入する方法を複数回試みたが樹立不能であった。患者細胞がウイルス感染に非常に脆弱であったことから、ウイルスを使用せずに初期化因子を導入するエピソーマルベクターを用いたが、この方法でも樹立不能であった。以上より、骨髄間質細胞の段階で正常Adenylate kinase 2 (AK2)遺伝子(細網異形成症の原因遺伝子)をレンチウイルスベクターで導入後に、リプログラミング因子を導入したところ、世界で初めて細網異形成症患者由来のiPS細胞樹立に成功した。この際、iPS細胞からの血球分化実験などでは導入したAK2遺伝子を除去する必要があるため、AK2遺伝子をloxPサイトで挟んだ。両患者由来のiPS細胞ともに、Cre recombinase発現ベクター導入によって、AK2遺伝子を除去することができ、iPS細胞として維持することも可能であった。今回樹立することができたiPS細胞の品質の評価として、未分化マーカーの定量PCR、遺伝子発現パターンの解析、染色体検査、および免疫不全症マウスを用いた奇形腫作成等を行った。両患者ともに、良好なiPS細胞を複数クローン得ることができた。これらのiPS細胞を用いて、好中球分化実験を行ったところ、正常コントロールやAK2遺伝子を導入したクローンに比べて、AK遺伝子を欠損したクローンでは明らかに好中球分化が障害されていた。これは、実際の患者の移植前骨髄像と所見が一致しており、病態再現に成功したと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の最大の目標であった細網異形成症の患者からiPS細胞を樹立することに成功し、さらにその品質評価も終了することができた。また、一部であるが、血球分化実験にて、病態再現にも成功することができたことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り、T細胞分化系の構築を行い、好中球分化系以外でも細網異形成症の病態再現をすることを目指す。遺伝子治療モデルの開発前に、本疾患の病態を明らかにすることが先決と考え、まずは患者由来のiPS細胞から分化した各血液細胞を用いて、エネルギー代謝およびアポトーシスの解析も含めた血液分化障害の解析を行うこととする。エネルギー代謝に関する実験、例えば、ATPやADPの定量などは、サンプルに対する実験時の機械的刺激、温度、培地条件、酸素および二酸化炭素濃度等に影響を受けやすいため、適切な実験条件の構築が必要と考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本疾患の病態解析を行うためには、患者由来のiPS細胞から血液細胞に分化させる必要がああり、分化用培地、サイトカインを購入する必要がある。また、iPS細胞の維持用培地およびサイトカインの購入もする。これまでの研究成果を発表するため、および、今後の研究の推進方策検討のための情報収集をするために、海外を含めた学会等の参加費に使用する。
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